思いの強さが世界を変える。兵庫・丹波篠山市は4月末、ロッテとスポンサーシップ契約を結んだ。ロッテ球団が千葉県外の都市と同種協定を締結するのは初めてのことだ。

同市で生まれ育った中森俊介投手(18=明石商)がドラフト2位でロッテに指名されたのが、全ての始まりだ。黒豆やぼたん鍋で知られる山あいの街からは、51年ぶりのプロ野球選手の輩出。酒井隆明市長(66)はドラフト後の昨年11月に「地元の少年野球団、中学校の部活動で育った子。市民からすると、自分たちの子どものように思っています」とうれしそうに話していた。

市内の野球好きはやはり阪神ファンが多いのに「これからは市民みんながロッテファンです」と公に発信するほどだった。市長室にお邪魔した際に構想を明かされた。「もし中森君がOKしてくれるなら、ふるさと大使をお願いしたいんです」。さらには「正式にプロ入りしてから、いつか中森君にコシヒカリを贈ることができれば。どんどん体を大きくしてもらいたいです」とも話していた。

不勉強で無礼ながら、コシヒカリは新潟県が中心の品種と思い込んでいた。「東の魚沼、西の丹波篠山、って言われるんですよ」と教わった。ふるさと大使就任とともに、このコシヒカリ贈呈も実現した。実に450キロ。球団全体への贈呈になったが、中森の食事量から計算した分量だそうだ。球団との地域連携事業を実現すべく、市側は令和3年度予算の策定段階から能動的に動いていた。

今年7月6日にはZOZOマリンのソフトバンク戦で「日本農業遺産認定記念 丹波篠山市 黒豆ナイター」を開催する。関東圏の野球ファンに向けた球場内での地域おこしに加えて、「当日の観戦チケット+特産品」を返礼品にしたふるさと納税も今後、受付を開始する予定だという。ありそうで、なかなかない返礼品。大きなPRになるだろう。

人気作「半沢直樹」シリーズの最新刊に丹波篠山が登場したと知れば、出版社に直接あいさつに出向き、市役所関係者も巻き込みながら次の展開につなげる。「リーダーとは?」が強く問われるご時世で、市長のバイタリティーには驚かされた。ロッテと丹波篠山の関係ももっと広がっていくだろう。中森がロッテのドラフト2位まで指名されずにいる可能性は、どちらかといえば低かった。偶然のご縁から切り開き、新たな魅力発信の機会が創出された。【ロッテ担当=金子真仁】