「六甲おろし」の父に、朗報は届くか。23年度の、野球殿堂入り発表が近づいた。阪神タイガースの歌として愛される名曲に、あのメロディーをつけたのが作曲家の古関裕而氏(故人)だ。20年から特別表彰枠で候補入りしているが、3年連続で落選に終わっている。22年は当選に必要な9票に1票差で届かなかった。

古関氏は、1909年(明42)福島県福島市生まれ。銀行勤務を経て、30年に日本コロムビアの専属作曲家となった。その後スポーツ音楽の第一人者として、大きな足跡を刻んでゆく。六甲おろしのほか、夏の甲子園大会歌「栄冠は君に輝く」、64年東京五輪の「オリンピック・マーチ」、巨人軍応援歌「闘魂こめて」、早大応援歌「紺碧(こんぺき)の空」などが知られる。

ほかにも「長崎の鐘」「とんがり帽子」「君の名は」など、あらゆる分野の名曲を手掛けてきた。20年に放送された、NHK連続テレビ小説「エール」の主人公のモデルでもある。

阪神との縁は、チーム創立時にさかのぼる。新球団「大阪タイガース」は36年3月25日、甲子園ホテルで結成披露パーティーを行った。席上で佐藤惣之助作詞、そして古関氏作曲の「大阪タイガースの歌」が発表された。61年に球団名を「阪神タイガース」と改めた際、同氏らの了承のもと歌詞も変更。後半部分「オウオウオウ~大阪タイガース」の「大阪」が「阪神」へと変わった。

古関氏は後年

「今なお多くの人たちに歌われていることに、大きな誇りと喜びを持っている。『オウオウオウ』から『大阪』へ移っていく箇所の言葉の響き、語感の盛り上がりからいえば、以前のものの方により以上の懐かしさを覚える」

と語っていたという。曲への強い思い入れがうかがわれる。

古関氏は89年に、80歳で死去した。同年に海部俊樹内閣から国民栄誉賞の打診を受けたが、遺族はこれを辞退。それならばと、慶大名誉教授で野球の歴史に詳しい池井優氏(87)が、同人誌に「ぜひ野球殿堂入りを」と寄稿した。福島県在住の慶大卒業生が、関係者に同誌を配布。福島市の木幡浩市長(62)や地元経済界関係者も、趣旨に賛同した。池井氏は福島県で18年、古関氏の野球殿堂入りを求める講演会を開くに至った。

池井氏は「球界の関係者も若返りが進んで、古関氏と野球との関わりが知られていないことを危ぶんでいます。とりわけ『六甲おろし』は球団発足と同時に作られ、現存する最古の応援歌です。なんとか今回こそ、殿堂入りがなればと強く願っています」と期待を込めている。

ところで阪神の岡田彰布監督(65)は、早大野球部OBだ。古関氏の死去に際し「大学の合宿所で『紺碧の空』を皆で歌ってから、神宮球場へ向かったものでした」と悼んでいた。

猛虎の将のみならず、あらゆる野球ファンの恩人ともいうべき国民的音楽家である。果たして「4度目の正直」はなるか。殿堂入りの発表は、来年1月13日に行われる。

【記録室 高野勲】(スカイA「虎ヲタ」出演中。今年3月のテレビ東京系「なんでもクイズスタジアム プロ野球王決定戦」準優勝)