北海道の、ある病院のICU。看護師としてコロナ患者の快方に全力を尽くした彼女の、今の本心だ。

「これからもし第2波、第3波が来たら、第1波の時と同じ思いをしなきゃいけないのかなと思うと…。これからの生活、どうしたらいいのかなって、毎日思いますね」

大のロッテファン、清田ファン。それさえ忘れ、ただただ必死に働いていた。「患者さんと関わっている時は、野球どころじゃなかった。精神的に追い詰められていた時期もあります」。未知のウイルスにおびえながら、誠実に向き合った。「退院できるよ」。陰性に戻った患者が、家族にそう電話報告した後の余韻の笑顔には、何度もグッと来た。

家では毎日泣いていた。野球が好きで良かった。「北海道から沖縄まで、何十人ものファンの友達がいるんです。皆さん、私が北海道の看護師って知ってて、心配してくださって」。何げないひと言でさえ、心の奥底まで染みていく。

疲れ切った日々に、郵便物が届いた。送り主は、高校生の野球ファン仲間。やっとの思いで手に入れたであろうマスクと一緒に、手紙が入っていた。「マスクが足りなくて、自分もきっと困っているはずなのに、看護師の私が困っているだろうと思って、わざわざ遠くから送ってくれて」。一生忘れない。

看護師の女性はまた観戦できる日を夢見て臨床に立つ(本人提供)
看護師の女性はまた観戦できる日を夢見て臨床に立つ(本人提供)

清田の勝負強さと、笑顔が好きだという。「なかなか出番がなく、ファンの私たちの気持ちが腐ってしまいそうな時でも、チームを盛り上げたり、若手に積極的に話しかけたり。自分のやるべきことをちゃんとやって、他の人の活躍も一緒に喜ぶことができる。こんな人に私もなりたいと、いつも思っています」。

コロナ禍の臨床を思い出すと、涙が出てくる。野球の話題になると、電話口の声は元気になる。乗り越えた先の希望を信じ、明日も闘う。電話の最後に「応援しています、と清田さんにぜひよろしくお伝えください!」と明るい声がはじけた。

闘い続けるファンからのエールを受けた清田は、心を震わせた。

「ぼくの活躍を励みに頑張ってくださっていると知って、ものすごくパワーをもらいました」

スタンドに観客が戻り、あらためて感じる。

「こうやって、ファンの皆様の前で試合ができるようになっているのは、医療従事者の方々が一生懸命頑張ってくれているおかげだと思っています。ファンの皆様からエネルギーをいただき、精いっぱいプレーして、それが少しでも勇気や希望になるのであれば、こんなにうれしいことはありません」

白球を通じて思いはつながる。【金子真仁】