「鉄道と野球」シリーズ第4弾は西武鉄道を取り上げます。阪神、阪急、南海、東急、西鉄、国鉄、近鉄、西武と多くの鉄道関連企業がプロ野球に参加してきましたが、今なお球団経営を続けるのは阪神と西武の2社だけです。生活に根ざした鉄道事業とプロ野球の関わりを、さまざまな面から紹介します。第1回は、西武球場前駅の臨時電車。

 
 

新型コロナウイルスによる入場制限が緩和され初めての試合となった9月22日。メットライフドームには、9471人が集まった。西武球場前駅に日常が戻った大事な日だった。

午後9時20分、球場からのホットラインが試合終了を伝えてきた。駅長が、今度は運転司令に連絡を入れる。「本日はパターン11で運転して下さい」。すぐに西武鉄道の運行管理システムが作動。全ての駅に情報が伝えられた。各駅の行き先案内板に「池袋行き 急行」が表示された。

同球場に電車で行く人なら乗ったことがあるはずだ。試合開催日は臨時電車が走る。臨時ダイヤは、平日ナイター、土・休日デーゲーム、同ナイターの3種類。午後6時開始の平日ナイターなら同5時、6時台に特急1本を含む計8本を池袋、西武新宿、本川越、所沢方面から増便し、来場者に対応する。

試合開始時刻が定まっている往路(下り)は、臨時電車を組み込むのは容易だ。問題は復路(上り)。試合がいつ終わるか分からない。そこで、あらかじめ試合終了時刻に応じたパターンを約15分おきに設定する。平日ナイターなら計11パターン。午後8時32分発から同11時41分発まで臨時電車を走らせる準備をする。

西武球場前発着の臨時電車が組み込まれたダイヤグラムには、びっしりと線が書き込まれている
西武球場前発着の臨時電車が組み込まれたダイヤグラムには、びっしりと線が書き込まれている

3面6線あるホームのうち、通常ダイヤの普通(西所沢行き)は1番線のみ使用。普段は空きの2~6番線に、臨時電車として下ってきた車両を待機させ、試合終了に備える。全て池袋行きで、通常は3本。最初の臨時電車は、試合終了後、最短10分で発車。駅に人があふれかえることなく、帰路についてもらえる。入場者5000人までに制限されていた期間は、これが2本だった。9月22日から、いつもの3本に戻った。

どのパターンで運行するか。基本的には試合終了時刻に応じて決めるが、そう単純でもない。人の流れも読む。試合後の催しや試合展開によって球場にとどまる観客が多いかも知れない。ベストのタイミングで臨時電車を走らせるには、担当者の経験がものをいう。

パターン運行の歴史は古い。所沢移転1年目、79年4月1日のダイヤ改正で採用された。まさに、西武球団の歴史とともにある。廃止された時期もあった。02年から09年は、試合後の臨時電車も固定ダイヤ。黄金時代が終わり、観客動員の減少が背景にあったようだ。だが、試合が長引き、先に臨時電車が発車することも。パターン復活を望む声は多く、10年から戻った。

狭山線(西武球場前~西所沢)は単線のため、途中の下山口駅でしか行き違えない。また、西所沢駅は平面交差のため、多くの電車が走る池袋線本線の妨げにならない注意が必要。数々の難点をクリアして、複雑なパターンダイヤは組まれている。続ける理由を運行計画課の担当者に聞いた。

「西武球場前駅は、埼玉の遠くというイメージを持たれています。パターン電車は急行、快速で池袋行き直通。速達性を高め、球場を身近なものと思っていただきたい。せっかく来ていただいたので、気持ちよくお帰りいただけるように」

急行を使えば、池袋~西武球場前は約40分。臨時電車は、お客様目線の結晶だ。(つづく)

【古川真弥】