メットライフドームに足を運んだファンは、臨時電車に乗れば池袋まで直通で楽に帰れる。西武鉄道が試合終了時刻に応じた複数の臨時ダイヤを準備しているおかげだが実際にどのパターンで運行するか、西武球場前駅の責任者たる駅長の腕の見せどころでもある。

同駅を含む所沢駅管区の駅長となって2年目、運輸部の石田大志さん(39)は「見極めには苦労します。一方で、この駅で働く使命、やりがいでもあります」と話す。

苦労のわけは「野球の試合は限りなく水もの。一番の臨機応変さが求められる」からだ。大勝ちしていれば7回ぐらいで帰るお客さんもいる。逆に、競っていれば最後まで残る人は多い。強力打線。もう終わりと思っていたら、終盤に追い付き延長戦なんてことも。「ライオンズにはいいことなんですが、心の準備は難しいかも知れません」と笑顔で打ち明けた。優勝やCSが決まる日となれば、当然、ほとんどの人が最後まで残る。人の動きを読み、臨時電車の最適な発車時刻を定めたパターンを選択しないといけない。

もう1つ、無視できない要素が試合後のイベントだ。駅長1年目に苦い経験をした。試合後のミニライブ。石田さんは、それほど人は残らないとみてパターンを選んだ。ところが、予想以上にライブは盛況、想定よりも低い乗車率で臨時電車を発車してしまった。「それからはイベントの中身もしっかり調べるようにしてます。自分が知らないだけで、世の中の人には人気があるイベントもある」。球団のイベント担当者にも集客見込みを聞き、事前の準備に力を入れる。

新型コロナウイルスで業務内容は増えた。発券機、自動改札機、ベンチ、待合室などを定期的に消毒。人数制限が続いているとはいえ、球場には多くの人が訪れる。もちろん、どの駅でもそうだが、感染症対策に手は抜けない。「グループの顔であるライオンズを見に来てくださる。しっかりやらないと」と気を引き締める毎日だ。

西武沿線で育った。小学生の時は森監督率いる黄金時代真っただ中。青いキャップをかぶり、清原だ、秋山だと喜んだ。西武鉄道に入社したのは「ファンだから、ではありません。たまたまですよ」と笑うが、野球を見る喜びを知っている。無観客が明けた7月、人が戻った駅に立ち「本当に良かった。お帰りなさい」という思いが込み上げた。

「試合終了直後ですから、お客さまの感覚は、すごく伝わります。勝って楽しそうに帰られる姿を見ると、疲れが吹き飛びますね。西武球場前駅勤務で良かったと感じる瞬間です」

お客さまの安全と楽しみのために。今日も発車オーライ!(つづく)

【古川真弥】