日刊スポーツ評論家の田村藤夫氏(61)が、ニッカンスポーツ・コム内で「みやざきフェニックス・リーグ」をリポートしている。関東第一から1977年(昭52)ドラフト6位で日本ハムに入団。19年に中日を退団するまでの42年間、選手、指導者としてプロ球団に所属して球界を生きてきた。今年はじめて球界から離れ、今までとは違う視点からかつての職場を見る。主に2軍を中心に取材を続ける田村氏の目に、育成の場はどう映るのか。

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このフェニックス・リーグでの最大の発見は、広島のドラフト5位、大卒ルーキーの石原貴規捕手(22=創志学園-天理大)だった。14日の広島-西武戦(天福球場)で初めて見たが「この選手がドラフト5位なのか」と、思わず選手名鑑を見てうなった。

今はネットで映像を見ることができる。私は球場でプレーする姿を見て、感じるものを大切にしてきた。その点で、石原からは多くの可能性を感じた。

打撃、キャッチング、スローイング、肩の強さ、こうしたスキルはプロのレベルにある。スローイングは正確で、肩も強い。キャッチングは低めのボールをしっかり捕っている。1球1球をしっかり芯で受けているのも、とてもいい。

そして、私は試合中の石原のたたずまい、ひとつひとつの動きに好印象を受けた。感覚的なものだが、具体例を挙げるなら、投手に返球する動きだ。

それは特別な動きではない。難しくない。小学生のキャッチャーもやっていることだ。技術は必要ない。私はそのしぐさの中に、捕手としての大事なものがあると感じ、現役時代を通じて大切にしてきた。

捕手は投手をよく観察しないといけない。緊張しているのか、興奮しているのか、自信がないのか、冷静なのかなど。サイン通りに投げられない場合には、メンタルが影響している場合が多く、単純に制球が悪いケースをのぞいて、受けたボールから投手の精神状態を推し量ってきた。

それが如実に出るのが、返球の時だ。私はまだ若手の時に、年上の投手たちから「受けたらすぐに返球してくれ」「あんまり急いで返球するな」「強いボールで返球しないでほしい」などと言われたことを覚えている。投手によっていろいろだ。同じ投手でも、その日のデキによっても変わってくる。

だから、捕手は常に投手をよく見て、精神状態に合わせて返球の時に投手の気持ちをほぐしてやるくらいの「ゆとり」が求められる。例えばピンチの時、投手が投げ急いでいると思えば、座って返球するところを、わざと立ち上がって2、3歩歩いてから返球する。ボールを手でこねてから返球する。ほんの数秒のことだが「間」が生まれる。一本調子で誰に対しても同じリズム、同じ強度で返球するのではなく、試合展開や場面によって、わずかに変化をつけることも大事だ。

説明が長くなったが、私が石原に感じたのは、そういう気配りができそうな空気があるということだ。直感的なもので、錯覚かもしれない。シーズンを通して観察しないと、本当にそういう気配りができるかの答えは出ない。

イースタン・リーグを見ていて、同じような感覚を抱いた捕手がいる。楽天のドラフト7位、高卒ルーキーの水上桂(19=明石商)だ。若い捕手を見る楽しみは、そういうところに思いをはせながら、どんな捕手に育っていくのか考える時だ。私は捕手として生きてきたので、どこまで行ってもゴールのない捕手の理想像を追い求めてしまうのかもしれない。(つづく)