DH制の導入によってどのくらい野球の質が変わり、セとパの差が出たかを、昨季のデータから検証してみる。

セ投手の打撃成績と、パのDHで出場した野手の打撃成績の合計を出し、1人の打者と仮定して平均値を出した(小数点は切り捨て)。セ投手は1割1分1厘、0本塁打、9打点。パのDHで出場した野手は2割4分1厘、16本塁打、61打点。当たり前だが、投手の打撃成績ではとてもレギュラーを狙えない。

20年セ・リーグ投手の打撃成績
20年セ・リーグ投手の打撃成績
20年パ・リーグDHの打撃成績
20年パ・リーグDHの打撃成績

DHで出場した野手の打撃成績なら中軸を担える。実際、今季のパ球団でDHで起用された打順は、1位が4番で226回。2位が6番で128回。3位が3番で114回だった。

強打者と“安パイ”の打者の差は、波状的な効果も違ってくる。投手の前を打つセ打者の平均打撃成績は、2割5分4厘、8本塁打、41打点。DHの前を打つパの打者は、2割6分6厘、12本塁打、58打点。

DHの打者が打線の主軸を打つケースが多いため、単純に比べるのは難しい。DHのないセの場合、投手の前を打つ打者はチャンスで敬遠気味の勝負が多い。チャンスでない場合は、四球を嫌がってストライクゾーンで勝負するケースが多い。単純に説明すると、チャンスで“ガチ勝負”が少なく、相手バッテリーが“なめて勝負”のケースが多い。ちなみにパの8番打者の平均打撃成績は2割1分2厘、5本塁打、27打点。9番にも野手が控えるため“ガチ勝負”が多いと推測できる。

20年11月、巨人との日本シリーズ第1戦で二盗を決めるソフトバンク周東
20年11月、巨人との日本シリーズ第1戦で二盗を決めるソフトバンク周東

明らかに差が出るのが、下位打線の盗塁数だ。投手の打席が絡みやすい7番から9番までの選手の合計盗塁数は、セが48個でパが111個。なぜ倍以上の差がついたかと言えば、投手はほぼ盗塁できない点、投手が打席に立つ際の走者は、盗塁を狙いにくいといった点が理由で間違いない。

下位打線とはいえ、パでは盗塁を警戒し、得点圏での対戦も多く、常に厳しい勝負が行われている。パの8番打者が低打率になるのも仕方ない。まとめるとパは盗塁を警戒する頻度も多く、得点圏に走者を背負って勝負する頻度も多い。

昨季の完投数と先発平均投球回
昨季の完投数と先発平均投球回

投手の成績を比べてみよう。意外なことに、DH制のあるパの方が、セより完投数が少ない。

セの36完投に対し、パは19完投。DH制を導入した初年度と前年の比較は以前に紹介したが、メジャーでもパでも100以上、完投数が上がっていた。DH制で増えるはずの完投数が、なぜセより少ないのか? DH制が導入されてからの数字を追っていくと、セパの実力差が開いていることが明確に分かる。

75年以降セ・パ完投数
75年以降セ・パ完投数

DH制が導入初年度の75年は、セの165完投に対してパは302完投。その後26年間、パの完投数が圧倒的に上回っていた。しかし徐々に差は詰まり、01年に初めて86完投で並んだ。02年にはセが98完投、パ81完投。初めてセが上回った。この時期あたりから先発完投が減り、投手の分業制が明確になった。現在に至るまで完投数が100を超えたのはパの05、06、09、11年の4回だけとなっている。

セとパの完投数が完全に逆転したのは15年から。パが上回ったのは17年だけだ。先発が長いイニングを投げられるDH制でも、パの方が投手の分業制が確立されているとも受け取れるが、実力的にパが完全に上回っていると実証できる数字がある。

05年から始まった交流戦で先発の平均投球回を比較すると、パが5・99イニング、セが5・86イニング。セの数字がパを上回ったのは4回しかない。

05年6月、日本ハム戦で先発する中日山井
05年6月、日本ハム戦で先発する中日山井

つまり、完投しづらいセの投手が、シーズン中では完投数でパ投手を上回っているのに、DH制のある、なしが同条件になる交流戦では、稼ぐイニング数が短くなっている。ちなみに、パが制覇している直近の日本シリーズ8年間の交流戦での完投数を比べると、セが50でパが40。分業制がしっかりと確立されている証左となるだろう。

DH制を採用して以降、パの投手が長いイニングを投げて鍛えられ、それに伴って打者も成長。セの投手はパ投手より長いイニングを投げられるようになったが、同条件で行われる交流戦だけを比べると、パの打者に苦戦している。逆に、パ投手は交流戦では長いイニングを投げられるようになる。

この不自然な逆転現象は「パ高セ低」の実力差を示す以外、何物でもない。パ投手の分業制が進んだのも、打者のレベルが上がったからだと推測できる。特に15年以降、投打ともにパは力をつけ、セとの実力差が開いている証明になっている。(つづく)

【小島信行】