19世紀にドイツを統一したオットー・ビスマルクの有名な言葉がある。

「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」

プロ野球の歴史を、時系列で振り返りながら検証してきた。もちろん、世界の歴史と日本プロ野球の歴史では、規模の大きさからして比べものにならない。しかし「なぜ、人気も実力もあった巨人がソフトバンクに完敗したのか?」や「なんでこんなにセ・リーグは弱くなったんだろう」という問いの答えは、おぼろげながら感じてもらえたのではないだろうか。

日本シリーズ第4戦 ソフトバンク対巨人 ソフトバンクに敗れ表彰式で整列する千賀滉大(41番)らナインを見つめる巨人菅野智之(右から3人目)(2020年11月25日撮影)
日本シリーズ第4戦 ソフトバンク対巨人 ソフトバンクに敗れ表彰式で整列する千賀滉大(41番)らナインを見つめる巨人菅野智之(右から3人目)(2020年11月25日撮影)

球史で区切って日本シリーズの勝敗の推移を見ると、明らかだった。巨人が無敵を誇った「前期」が、セ17勝パ7勝。ドラフト制度やDH制を導入し、強かった巨人を見習ってパが巻き返した「中期」が、セ5勝パ14勝。劣勢になったセが、巨人を中心にフリーエージェント制度や逆指名制度を導入した「後期」が、セ8勝パ2勝。ポスティングなど、一流選手がメジャー流出してからの「現代」が、セ3勝パ14勝。

都合よく時代を区切っているわけではない。勝敗に偏りが出るのは、それなりの理由が存在していたからだった。「日本シリーズの通算成績はほぼ五分五分なんだから、それほど騒ぐ必要はない」という浅はかな考え方をしていたら“パ強セ弱”の傾向は今後も加速する一方だろう。

流れを見てみると、セが優位だった時代は主に巨人が強かったから。巨人にしても、人気と資金力を武器にした制度改革を率先して実行し、その恩恵に頼る部分が大きかったと言わざるを得ない。というより、これまで黄金時代を築いた巨人、西武、ソフトバンクには、さまざまな制度を有効活用して選手を集め、有能な監督を迎え入れた「企業努力」が根底にある。

突出して強いチームが球界を引っ張る。強いチームを倒すために、制度の改革が行われ、チームの強化法が改善されていく。同リーグに強いチームがあるから、倒そうと工夫を重ねる。このサイクルが球界全体を発展させていくのだが、今はセとパの格差が開きすぎている。昨年、DeNAのラミレス監督は「セはパより5年遅れている」と言ってユニホームを脱いだ。今回の連載を振り返ってみても、ラミレス監督の発言は的を射ているのが実証されたのではないだろうか。

セのDH制導入についての論議も、球史の延長上の中で考えると、見え方も違ってくる。

選手の年俸が高騰する可能性がある制度の導入に反対する球団は、常に弱小球団が多い。プライドの高いセが、パのマネをしたがらないから反対しているという見え方もできる。新制度の導入や変更を推し進める巨人に対して、他球団のアレルギー反応で反対している…などなど。

そもそも、DH制の導入は、それほど大きな改革なのだろうか? 単純に野球の質を高める可能性があるのだから、とりあえず導入してみればいい。効果がなかったり「DHなし」を訴えるファンが多ければ、やめればいいだけ。メジャーを見ても、昨年はコロナの影響で両リーグでDH制を導入。DH制のないナショナル・リーグで反対派だったドジャースのロバーツ監督やロッキーズのブラック監督は、賛成派に変わっている。すぐに導入できるし、すぐにやめることも可能な制度だと思う。

手っ取り早くセとパの差をなくすなら、隔年でセとパの半数の球団を入れ替えればいい。他にも、ある程度の年数をおいてセとパで交互にDH制を入れ替えてもいい。メジャーのようにFA期間を短縮し、権利を取得した選手全員が自動的に権利を行使するように変更すれば、リーグによる格差は分散する。その上で年俸の高騰を懸念するなら、各球団の総年俸の上限を設定し、それを超えたら各球団に超過した分の金銭を分配する「ぜいたく税制度」を導入すればいい。

最後に挙げた個人的な改革プランは、やや乱暴で不快に感じてしまった方もいるかもしれない。不快に感じたなら忘れてもらいたいし、謝罪したい。ただ私自身も長い間、野球界で仕事をさせてもらっている大の野球ファン。魅力のある日本球界へ、発展を願っている。(この項おわり)

【小島信行】