花見シーズンが到来した。新型コロナウイルスの感染予防を考えれば、桜の木の下にシートを敷き、家族や友人と楽しく食事するのは難しいだろう。当たり前が次々と失われ、日常のありがたみを痛感する。とはいえ、悲観的になるだけでは何も起こらない。

巨人の2軍が練習する、川崎市のジャイアンツ球場あたりも桜の名所だ。京王線のよみうりランド駅すぐ近くから、遊園地へ向かうゴンドラに乗車して窓から下を見れば、無数の桜が咲き誇っている。下から見ることが普通の花見も、発想を転換すれば全く違った楽しみ方ができる。

角度を変えて対象を見る。発想の転換。プロ野球の指導者には欠かせない資質だ。好素材をいかに導くか…固定観念や思い込みは可能性を狭める。

大卒ルーキーが4人も開幕ローテーションに入った。楽天早川、日本ハム伊藤、DeNA入江、ロッテ鈴木。それぞれ魅力があり、楽しみしかない。早川は完成された投手で、勝てる要素の全てを持ち合わせている。彼が楽天に入団した時点で、優勝候補に挙げたほどの素材だと思う。

楽天早川隆久(2021年3月28日撮影)
楽天早川隆久(2021年3月28日撮影)

一方で、他の3投手はまだ伸びしろが残っていて、将来性が楽しみな印象を持っている。

伊藤はマウンドさばきに優れ、ピンチの時も表情に出さない。ふてぶてしさが最大の魅力で、投球に関しても「そこに投げる」という意思を感じる。投球フォームも力みがなく、理にかなった投げ方で、自分を見失わなければ早い段階で結果を残すだろう。

日本ハム伊藤大海(2021年2月13日)
日本ハム伊藤大海(2021年2月13日)

入江は、ボールに力を伝える感覚を持っている投手だ。テークバックが小さく、インパクトの瞬間にヘッドが利く。強いボールを投げられ、将来的な適性はリリーフではないか。

DeNA入江大生(2021年3月17日撮影)
DeNA入江大生(2021年3月17日撮影)

鈴木はテークバックが非常にいいので、リリースするまでの軸の移動がスムーズにできてくれば、まだまだ良くなる。直球あっての変化球という投球のセオリーが、彼の場合は逆。元日本ハムの八木智哉に近いイメージがあり、強烈な輝きを放つ可能性を秘めている。

ロッテ鈴木昭汰(2021年2月25日撮影)
ロッテ鈴木昭汰(2021年2月25日撮影)

今は短所の克服よりも、それぞれの長所を伸ばしていくべきだろう。タケノコはよほどのアクシデントがない限り、立派な竹になる。野球選手は桜やタケノコのように決まった形には成長しない。成長の過程で、1つの物事に対し「なぜ?」と疑問を持ち、立ち止まって角度を変えて見たり、考えたりすることが大切だ。「我以外皆我師」。至る所に転がっている学びを逃さず、拾い上げていくことだ。(つづく)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算10年で24勝27敗。79年からコーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団で投手コーチを務め、13年からロッテで指導。17年から19年まで再び巨人でコーチを務めた

小谷正勝氏(19年1月撮影)
小谷正勝氏(19年1月撮影)