二刀流の衝撃は、あの日から始まった。開幕4戦目、4月4日のホワイトソックス戦だ。大谷は指名打者(DH)解除の「2番投手」で出場。メジャーの公式戦では自身初となるリアル二刀流での出場となった。1901年以降の近代野球で「2番投手」で出場したのは2人目。1903年のジャック・ダンリービー以来、118年ぶりの歴史的試合となった。

エンゼルス大谷翔平
エンゼルス大谷翔平

スポーツ専門局ESPNの全米中継で注目された一戦。期待を背負い、二刀流の大谷は1イニング目、10球目でいきなり直球の球速100・6マイル(約162キロ)を計測した。打者では1回の第1打席、初球の直球を捉え、打球速度115・2マイル(約185キロ)、飛距離137・4メートルの豪快な一撃を右中間スタンドへたたきこんだ。その時点で自己最速&自己最長飛距離をマークし、3回にはこの日最速101・1マイル(約163キロ)を計測。投打で、強烈なインパクトを残した。

マドン監督にとっても、今季最も印象に残ったプレーとなった。「あの試合の活躍で(リアル二刀流が)できるのかどうか、すべての質問に回答した。懐疑的な声も多かったし、私もそれを聞いたからね。そして、彼はあのスイングで黙らせた。周囲の誰もが何も言わなくなった。みんなが彼はできるんだと信じた。その後に見せたすべてのプレーは、あのスイングから始まったと思う」。DH制のア・リーグであえてDHを解除し、投打で同時出場させる決断を下した指揮官もうなる、驚異的なパフォーマンスだった。

勝ち投手にこそならなかったが、改めて二刀流選手としての高い潜在能力を示した。大谷は「公式戦でこういう形でできたというのは、1つ良かったところ」と、控えめながら充実感を口にした。万全の状態で臨んだ結果、「体自体は動いていましたし、良かったのかなと。ファンの人も多く入って、去年と違う雰囲気というか、すごく野球をやっているなという感じはする」。右肘のトミー・ジョン手術を経験し、前例のない二刀流の復活ロードで絶好の再スタートを切った。

本塁打を放つエンゼルス大谷翔平
本塁打を放つエンゼルス大谷翔平

リアル二刀流は23試合の登板のうち19度。投手で9勝1敗も、打者では打率2割1分4厘、3本塁打、7打点。打撃面で結果的に物足りなさは残ったが、8回を投げ抜いた8月18日のタイガース戦で大台の40号、9月10日の登板でも44号を放った。開幕当初は「できるのか?」という疑問の声があったが、シーズンが進むにつれ、リアル二刀流は“当たり前”になった。今、大谷しかできないことにもかかわらず、疑問や驚きは消え去り、通常となった。そのことこそが、大谷の成し遂げた偉業でもある。【斎藤庸裕】