<全国高校野球選手権:敦賀気比13-3高岡商>◇8日◇1回戦

敦賀気比のエース上加世田頼希投手(3年)はKOされた直後だというのに冷静だった。6回2死二塁、ネクスト・バッタースボックスにいたときだ。自ら手を挙げ、美野球審に「タイム」を要求した。ブルペンで行う投球練習のボールがフィールド内に転がったのを見逃さなかった。

甲子園では高校野球に限り一、三塁のファウルグラウンドにあるブルペンを使う。出番に備える控え投手が時に制球を乱し、ボールが外野に転がりこむ。開幕試合の日大三島-国学院栃木戦で2度、この日の興南-市船橋戦でも試合が止まった。かつて球審が気づかずに試合が続けられ、三塁打が取り消されたことがあった。

10年夏の2回戦、土岐商-八頭戦だった。7回2死一、二塁。土岐商の加藤秀和外野手が2番手投手の初球を捉え、右中間に三塁打を放った。2者が生還。ところが直後に球審がマイクを握り、場内に「タイムがかかっており、打ち直しとする」旨を告げた。加藤は「えっまじか、と思いました」。投球動作に入る寸前、三塁塁審が転がったボールに気づいてタイムをかけており、その直後に出た三塁打だった。

加藤は落ち込まなかったという。「もう1回大きいのを狙ったらダメ。コンパクトに振ろう」。代わった3番手の速球をはじき返して右前打し、二塁走者をかえした。長打が単打に、打点は1つ減ってしまった。加藤は「チームは勝ったしヒットが出たんでいいんです」と笑顔で話した。13年夏の延岡学園-富山第一戦では外野審判のタイムが伝わらず、延岡学園の併殺プレーが取り消されたこともあった。

上加世田のアピールのあと、打席の春山陽登外野手(3年)は四球を選び、自らは一塁を強襲(記録は失策)して6点目が入り、流れを呼び戻した。終わってみれば13-3の大勝。それでも上加世田は「情けない投球をしてしまった。(救援した)清野のおかげで勝てた。初戦だから力んだわけじゃなく、抑えてやろうという力みだった。打たせて取れと常に監督に言われている。反省しないと」。5回途中で降板した投球を悔やんだ。

今春のセンバツでは広陵に0-9と大敗した。リベンジを目標に掲げた夏。2点差に詰め寄られ、流れを失いそうになりながら、それでも冷静に試合を進め、勝利を呼び込んだ。【米谷輝昭】