<全国高校野球選手権:聖望学園8-2能代松陽>◇10日◇1回戦

相手投手をにらみつける目力は弱かったかもしれない。聖望学園・江口生馬捕手(3年)の右目の周りは腫(は)れていた。まゆ毛の上にはテープが貼られていた。それでも二塁打を含む3安打2打点。初戦突破に貢献した。「つなぐ野球で1点、1点、重ねていく気持ちでした。理想の攻撃ができました」と声を弾ませた。

右目の上にばんそうこうを貼る聖望学園・主将江口捕手(撮影・宮地輝)
右目の上にばんそうこうを貼る聖望学園・主将江口捕手(撮影・宮地輝)

6日の練習中に外野からの送球を顔面に受けた。右目上を5針縫う裂傷。前日9日にやっと痛みが消え、目が開くようになったという。「最初はどうなるかと思ったのですが、万全な状態で臨めます」と気丈に話していた。主将で捕手。岡本監督は負担を軽くしようと打順を4番から6番に下げた。そんな心配を吹っ飛ばす大暴れになった。

ケガを負いながら大活躍した選手が池田(徳島)にいた。1982年に全国制覇したときの9番、山口博史遊撃手だ。2回戦(対日大二)前の練習でファウルチップを口に当て、2針縫って出陣した。初戦(対静岡)の無安打から一転、決勝の本塁打を放ち、ヒーローになった。3回戦(対都城)では4打数4安打、2試合連続となる本塁打をかっとばした。

くちびるの腫れがひかず、試合当日の食事は朝がおかゆ、昼がうどん1杯というありさま。試合後にこんなセリフを吐いて笑わせた。「腹が減りました。今晩はちゃんと食べます。でないと、もう打てません」。そんな山口に「くちびる君」というニックネームがついた。

空腹が続いても、勢いは止まらなかった。準々決勝(対早実)では3打数3安打1打点。当時の人気者、荒木大輔をKOした。日本一に登り詰めた。通算成績は23打数11安打の4割7分8厘、5打点。のちにプロ入りする畠山準、水野雄仁らが注目を集める中、「くちびる君」も負けてはいなかった。大会後半には「恐怖の9番打者」という名前ももらった。

82年8月、広島商を下して優勝した池田・山口(右)は畠山に抱きついて喜ぶ
82年8月、広島商を下して優勝した池田・山口(右)は畠山に抱きついて喜ぶ

江口は3安打して打線をひっぱり、女房役として岡部の好投も導いた。「くちびる君」のように、一気に突き進むだろうか。2回戦ではセンバツの覇者、大阪桐蔭が待ち受ける。「守備から流れをつくる自分たちの野球をやり切りたい。目の前の敵を倒す戦いをしていきたいです」。視界は良好、強敵をしっかり見据えて大一番に臨むはずだ。【米谷輝昭】