AIやロボットが社会に広がる中、野球指導の現場でもテクノロジー化が進む。1月26日、スポーツ向けAI解析×パフォーマンス向上サービスを提供する「株式会社NineEdge」(ナインエッジ)が、スマートフォンで野球の動作解析、データ測定ができる「ForceSense」のアプリをリリースし、注目を集める。

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「株式会社NineEdge」の代表取締役CEOの渡辺一矢氏(39)は、スマートフォンで野球の動作解析、データ測定ができる「ForceSense」のアプリを開発した理由の1つに、自身のアマチュア時代の苦い過去を挙げた。小学3年から野球を始め、高校は宮崎・都城高に進学。夢の甲子園を目指したが、ケガに悩まされた。

渡辺氏 今のようにトレーニングの練習の情報とかもなかなかなかったですし、僕のようにケガをしてしまったり、野球が嫌になって、やめる選手もいたりして…。そんな選手のためにもテクノロジーなどを活用しながら、上達していく、プロセスの補完になるツールができればいいなと思ったんです。

1年夏、甲子園に出場した先輩たちをスタンドから応援した。2年秋からベンチ入りしたが、故障もあって、高校野球は不完全燃焼に終わった。進学した第一経済大(現日本経済大)では準硬式野球部に所属。卒業後は岡三証券に入社した。退職後に株式会社JPFを設立。その後もさまざまな事業を展開したが、野球への思いは不変だった。

夢の実現に向け、20年11月にNineEdgeを設立。解析システムのベースを作りながら、22年1月から本格的に事業をスタートさせた。知人を通じ、元プロ野球選手、社会人野球、大学野球、高校野球の関係者らと交流。昨年11月にウェブサービス「ForceSense」(ベータ版)がリリースされた。

同サービスを作り出す上で技術的な観点で生きたのは、取締役COOを務めたLeapMind株式会社での経験だった。同社ではディープラーニングを活用した映像・画像認識システムのサービス開発や大手クライアントと共同研究。AIの領域、それに伴った技術に触れた。

また、メンバーの多くがエッジAI(※)に携わったことがあるのも強みの1つである。リアルタイム処理が必要な解析はエッジ側で実施し、それ以外の処理はサーバーで行って、処理負荷を低くするなどの取り組みによって、サービスをスマートフォンで展開することが実現した。

昨年11月には、強力な援軍も加わった。西武、巨人でプレーし、4年連続盗塁王を獲得した片岡保幸氏(40)がアドバイザー兼エバンジェリストに就任。巨人でのコーチ経験もある同氏にアドバイスをもらいながら、システムの向上を図っていく。

6月をメドに、有償版もリリースされる予定で、渡辺CEOは「価格帯を抑えることによって、いろんな選手に使ってもらえるんじゃないかなと思います。レクチャー機能も構築していて、映像、データを見るだけから、どうすれば良くなるかをご提案できればと思っています」と説明。野球界でもテクノロジー化がさらに進みそうだ。【久保賢吾】(この項おわり)

※エッジ(ネットワークの端となる手元のデバイスや、その近くに配置されたサーバー)でAI処理を行い、クラウドとの通信を極力減らす仕組み。