100周年を迎えた第97回全国高校野球選手権期間中、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の著者、岩崎夏海氏(47)が「百年の球独(きゅうどく)」と題して特別寄稿。1915年に第1回全国中等学校優勝大会が豊中グラウンドで始まってから、1つの球場で、1つのボールを追いかけてきた球児たちをめぐるドラマを独自の視点で切り取ります。

 大会10日目、清宮くんがまた打った。ついに待望のホームランが出て、その上貴重な追加点となるタイムリーも放った。この日は1面を飾る新聞も多いのではないだろうか。

 ところで、清宮くんの魅力は猛打もさることながらチャンスに強いところである。ここまで3試合とも打点をあげた。

 なぜ清宮くんはチャンスに強いのか? それは彼が「野球オタク」だからではないだろうか。それも相当な「技術オタク」だ。

 例えば、インタビューでバッティングについて聞かれると、ホームランについては「ちょっとこすり気味でした」、第3打席のタイムリーについては「先っぽでしたけど、理想のバッティングでした」と、常に技術について話す。

 また、4番の加藤くんがホームランを打ったときには、自分のこと以上にうれしそうにしていた。それについて問われると、「あんな大きなホームラン見たことないんで」と答えていた。

 つまり清宮くんは、本当の意味で野球を楽しんでいる。それも、ゲームのドキドキを楽しむのではなく、「どれだけうまく打てたか」という「技術の追求」を楽しんでいるのだ。

 それが、チャンスに強い理由ではないかと推測する。どういうことかというと、あまりに野球オタクなため、チャンスじゃないときはつい自分の技術の追求に走り、失敗してしまうのではないだろうか。その逆に、チャンスになるとそれは忘れて野球に集中できるので、ヒットが量産されるというわけだ。

 これは1回戦のことなのだが、清宮くんは7回にこれも貴重な追加点となるタイムリーを放った。このバッティングフォームがすごかった。相手投手の速球に少し差し込まれたのだが、そこで腰の動きを止めると、その反動でスイングスピードを上げ、正しいポイントで打てるよう対応していた。いわゆる「ツイスト打法」というやつだ。

 これは、プロ野球の阿部慎之助選手などが用いる高等技術なのだが、タイミングをずらされたときのための「備え」なのだ。プロの選手は、タイミングが合えば打てるという自信を持っているから、それを外されたときの備えとして、わざわざ時間をかけてツイスト打法を練習する。

 その熟練の技術を、清宮くんはすでに持っている。ということは、その備えに時間を費やせるほど、「タイミングさえ合えば打てる」という自信をすでに持っている、ということになるのだ。

 その通り、この日のインタビューでもさりげなくではあったが「目標は残り全打席ヒット」と述べていた。それは、もちろん試合に勝つためというのもあるだろうが、同時に、これまで培ってきた技術に対して自信がある、ということでもある。

 ここからの試合は、おそらくこれまでのように技術の追求をしている余裕は少なくなるだろう。そうなると、集中した清宮くんのバットはますます火を噴くようになるのかもしれない。

 ◆岩崎夏海(いわさき・なつみ)1968年(昭43)7月22日、東京生まれ。茗渓学園で軟式野球部。東京芸大卒業後、秋元康氏に師事し、放送作家に。著書「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」が270万部を売り上げた。