100周年を迎えた第97回全国高校野球選手権期間中、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の著者、岩崎夏海氏(47)が「百年の球独(きゅうどく)」と題して特別寄稿。1915年に第1回全国中等学校優勝大会が豊中グラウンドで始まってから、1つの球場で、1つのボールを追いかけてきた球児たちをめぐるドラマを独自の視点で切り取ります。

 大会11日目は、4試合とも1点差の好ゲームがくり広げられた。どの試合も、どちらのチームが勝ってもおかしくなかった。

 では、勝敗を分けたのは何か?

 それは「ミス」であった。

 ただし、ミスをした方が負けたのではない。ミスをしても、それを引きずらず、すぐに気持ちを切り替えた方が勝ったのだ。

 第1試合。秋田商は8回、エラーをきっかけに同点に追いつかれてしまった。しかしそこから立て直し、今度はショートの草なぎくん、センターの会田くんとファインプレーを連発して、延長戦で勝ち越した。

 第2試合。この試合のエラーは、負けた中京大中京が1つもないのに対して、勝った関東第一は3つもあった。

 そのうちのひとつが、7回表に出たライト長嶋くんのファンブルだ。ゴロのボールを取り損ね、無死二塁のピンチを招いてしまった。

 しかし、この回をなんとか無失点で切り抜けると、試合を決めたのもその長嶋くんだった。9回裏に、これまで0に抑えられていた中京大中京のエース、上野くんの初球のストレートを狙い打ちし、劇的なサヨナラホームランを放ったのだ。

 第3試合。この試合は、仙台育英が4対3と競り勝った。その殊勲選手は、4安打を放った百目木くんだ。監督も、試合後のインタビューで勝利の要因に百目木くんのバッティングを挙げていたくらいだ。

 この百目木くん、そんなふうに打つ方では活躍したのだが、実は先発投手でもあった。そして先発では、必ずしも自分のピッチングができなかった。4回に2点目を取られ、途中降板してしまった。

 しかし百目木くんは、この「ミス」にもめげなかった。降板後も2安打を放って、チームの勝利に貢献した。

 最も印象的だったのは第4試合だ。7回に同点タイムリーを放った興南の仲くんは、なんと直前にスクイズを失敗している。これでチャンスは完全についえたかに思えた。特に、スクイズを空振りした仲くんには大きな重圧がのしかかっていることは明白だった。

 ところが、仲くんは重圧をはね返し、直後に見事な流し打ちで、レフトオーバーの同点タイムリーを放つのだ。

 高校野球には、ミスがつきものである。それを避けるのは至難の業だ。

 だから、大事なのはミスをしないことではない。それをいかに乗り越えるかということだ。いかに気持ちを切り替えるかということである。

 その意味で、ベスト8に残った全てのチームは、ミスをしてもそれを引きずらない雰囲気がある。だから、選手も必要以上に落ち込むことなく、すぐに気持ちを切り替え、次のプレーに向かうことができている。

 だからこそ、ここまで勝ち残ってきたのだ。ここからの試合は、さらにそれが勝敗の行方を左右するようになるだろう。

※草なぎのなぎは弓ヘンに前の旧字の下に刀

 ◆岩崎夏海(いわさき・なつみ)1968年(昭43)7月22日、東京生まれ。茗渓学園で軟式野球部。東京芸大卒業後、秋元康氏に師事し、放送作家に。著書「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」が270万部を売り上げた。