“意外”と言ったら本人に失礼だろうが、今季で5年目。注目感が薄らいできた選手の急成長だ。阪神中谷将大外野手(22)。4月27日現在、打率3割3分9厘はウエスタン・リーグ打撃部門のトップに立っているから驚き。身長187センチ、体重88キロで右投げ、右打ち。恵まれた体。捕手として入団したが、もう2年目から打撃を生かすために内、外野を守れるようにコンバート。若手の成長株として大きな期待を寄せられ、2年目で早くも1軍の公式戦(倉敷・中日戦)に「7番右翼」でスタメン出場。チームの期待感の証しだった。が、その後はファームの成績を見ると1年目こそ打率2割6分1厘の成績を残したが、以降、2割2分5厘。2割1厘。1割9分と伸び悩んでいた。素晴らしい打撃センスを持ちながら、なぜ…。の疑問符を持ち続けてきただけに、つい冒頭の意外という活字になってしまった。

 どう変身したのか。見ていてフォームが大きくかわった印象はない。掛布DCの言う「打ちにいく時、踏み出した左足の膝が柔らかく使えるようになった。以前は足が突っ張っていたんですが、あの膝の使い方でボールが見極められるようになった」という。おかげで悪球に手を出さなくなったのだから確かに成長している。ストライク、ボールの見極め。そういえば先日の中日戦(鳴尾浜)、同点で迎えた8回裏の攻撃。前打者江越が左前安打して打順が中谷に。追い込まれていたが動揺はない。際どい球をよく見極め四球で出塁。次打者原口の3ランを誘導してチームの勝利に貢献した。選球眼、打者としては特出すべき成長と言っていい。

 中谷を入団した時から見続けてきた八木打撃コーチの目にはどう映っているか。「フォームうんぬんより、これまではホームランを打ちたい。とか、ホームランを打たないといかん。など余分なことを考え過ぎていた。ホームランを打ちたい、ヒットを打ちたいと思ってもそんな簡単に打てるものではありませんし、両方を追いかけるなんていっても気持ちだけで打てるもんじゃないです。そんなむずかしいことできっこないですよ。それより、いかに自分のバッティングができるようになるかです。きた球を自然に打つ。気持ちを切り替えてやっているのがいい結果になっていると思いますよ」。なるほど。中谷成長の一環が見えた。

 存在感はあっても薄らぎつつあった。どちらかといえば、本人は懸命に野球に取り組んでいるつもりでも監督、コーチにはその気持ちが伝わらないタイプ。己を首脳陣にアピールするところまでは至っていなかったが、今やゲームでしっかり結果を出して自己主張している。今年は沖縄の1軍キャンプに参加した。オープン戦でもヤクルト戦で3ランを放って持ち味を発揮した。1軍の選手を間近にして、いろいろ見聞きして勉強してきた。その体験が自信に。自信は成長には欠かせない産物であり、中谷はいま1軍昇格を猛烈にアピールしている。

 調子がいいのだろう。バッターボックスでのしぐさはゆったりして見える。ボールにもよくついていっている。昨年までと比較すると目に見えてボール球に手を出さなくなった。「これまでは、どうしても上体が前に突っ込んでいましたが、それがいまはボールを後ろから見られるようになりましたので、ヒッティングポイントも後ろになりましたし、ボールを長く見れるようになってストライク、ボールの見極めができるようになりました。それと、昨年まではバッターボックスに入ってからピッチャーの対応をあれこれ考えていましたが、今年は打席に入る前に考えを整理できるようになりました。この調子を持続していきたいですね。」(中谷)。

 何と言っても笑顔がいい。高打率は成長の証しだ。ただ、きっかけはつかんだものの、調子のいい時ばかりではない。スランプは必ず襲ってくる。そこで、元に戻るなら野球人生の危機にもなりかねない。現状に満足するな。野球はもっともっと奥の深いスポーツだ。肝に銘じて精進することだ。