阪神恒例。球団独自で制定する今年のファーム月間MVP“第1号”は新人。福永春吾投手(23)が選出された。四国IL・徳島からドラフト6位で入団。185センチ、90キロ。右投げ、左打ち。すでにウエスタン・リーグ公式戦で3勝をマークする将来の有望株。開幕して2カ月。5月12日のソフトバンク戦(鳴尾浜)試合前、今シーズンチームトップを切って表彰された。

 重い速球が武器。結果はともあれ早くも桧(ひのき)舞台での先発マウンドは期待のあらわれ。OB会も若手育成に一役買っており、大きく成長してくれることを願って金一封を贈呈した。

 鳴尾浜球場のスタンドはほぼ満席。1軍の広島戦では4回6失点。無残にもKO。悪夢のような一日を体験してきた福永だが表彰式では名前を呼ばれてベンチを出てきたときから満面の笑み。まずはスタンドのお客さん。相手チームに一礼。球団はじめ、各協賛社からの賞品を受け取った。そして、OB会からの金一封は川藤会長所用で欠席のため、プレゼンテーターの大役が私、本間副会長に。ひと声「頑張れ」と気合を入れておいたが「やっぱりシーズンのトップで選ばれたのはうれしいです」と気持ちそのままの表情・人当たり等から想像すると、なかなか純粋な若者。試合終了後のウエートトレーニングを待っての取材には「お待たせしてすいません」礼儀正しい一面をのぞかせた。

 1軍で活躍している選手には、純粋に野球がすきであり続けた選手が多い。福永にはその要素があると見た。現代っ子というか、今どきの若い選手には緊張という文字は皆無に等しく思えるが、5月6日のマウンド上、福永の表情を見ていると顔が引きつっていた。我々の時代に限らず1軍で初、それも先発のマウンドとあらば緊張して当たり前だ「僕の場合、タイガースに入団してキャンプも安芸でしたし、夢だった1軍の人と接触するのはあの時が初めてでしたし、何の予備知識もなくあの場に立って、頭の中は真っ白でしたしパニック状態でした。本当、ものすごく緊張しました」(福永)。正直で非常に好感は持てるが、嘘も方便という言葉もある。この世界もう少しやんちゃで個性を表面に出した方がいいかも…。

 チャンスをつかみも結果が出せなかった。2軍落ちした。容赦のない降格、若手にとっては厳しい扱いだが、これが勝負の世界だ。が、怖いのは次に登板機会をつかんでも「ここでいいピッチングをしないと、またファームに落とされる」の危機感を引きずってしまうことだ。投球内容が消極的になる。腕が強く振れない。余分なところに力みが。すべてが悪循環になっていい結果が出せない。

 久保コーチは「これまでも何人か同じことを繰り返してきましたが、1度だけのチャンスは厳しいですね。でも福永は1軍で通用する力は持っています。この前は緊張し過ぎて自分の持ち味を出せませんでしたが、次回も同じことをしているようではダメです。本人もようわかっています。前回をいい教訓にして今度は頑張ってくれるでしょう」と期待する。福原コーチも「球が重い。その重い速球を中心に縦に割れるカーブもいいですから」と次回のマウンドに期待している。

 実力のほどはファームとはいえ、新人でありながら開幕3戦目で先発投手に抜擢されたことでわかる。しっかり自分を見つめているところがいい「前回の体験を無駄にしないことです。何をすべきかは勉強させていただきました。それをいい教訓にして、その日が近づいてきましたら、自分にどんどんプレッシャーをかけていきます」と己との戦いを強調。現在のテーマにも納得させられた。「バントの処理など守備も大事です。ピッチャーも手から球が離れた直後から野手ですからしっかり練習しています。それと、なんといってもコントロールです。日によっては一日ストレートだけを160球外角低めへ投げる練習もしています」確かに阪神投手陣の失策は桁外れに多い。すべては体で覚えるのが一番。

 今回のチャンスは一度だった。若手には厳しい扱いにも思えるが、これがプロ野球界。弱肉強食の世界であることを肝に銘じて、純粋に野球が好きであり続けること。成長に必要不可欠な我慢。挑戦はここから生まれる。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)