抜群のバッティングセンス。今シーズン何試合か拝見してきたが、とても高卒ルーキーとは思えないバッティングをしている。打席でのトップの位置は決まっている。バットの出はスムーズだ。スイングの軌道も申し分ない。上半身と下半身のバランスも良し。朝山バッティングコーチいわく「ストレート、変化球、プロのスピードに対応できる技術を持ってプロ入りしてきた」ほど。もちろん、打席によっては想定外のことがあれば、ミスもある。これが野球だがめったに出ない逸材。注目する価値ありと見ての取材である。

 広島坂倉将吾捕手(19)176センチ、82キロ。ガチッとした体格の右投げ、左打ち。日大三からドラフト4位の入団。6月26日現在の成績は52試合に出場。157打数、47安打。打率.299。残念ながらキープしていた3割のアベレージは、24日の阪神戦で切れてしまった。その時の相手は現在はファームで調整中とはいえ、阪神のエース格藤浪である。3打席連続三振。もう完璧にやられたが、高校出の新人で規定打席に達していてこの成績は立派。同コーチ「どちらかといえば速い球より変化球みたいな遅い球の方がうまく対応しますが、今日は藤浪に完全にやられました。速い球を打つためにはバットの先が立っていないとダメです。今日の坂倉はバットが立っていなかった」の指摘。今後の課題のひとつだろう。

 バッティングは高校時代から素晴らしかった。4番に座ったのが1年生の秋からという素材。目標は“打てる捕手”である。「確かにキャッチャーである以上、守りが大事なのはよくわかっています。でも、自分の持ち味(バッティング)も大事にしたいと思いますので、バッティングの方も一生懸命頑張ります。他の人の倍練習します。それが僕に与えられた使命だと思います。藤浪さんですか…。プロにはいってから高校時代とのスピードの差はあまり感じたことがありませんでしたが、藤浪さんはいままでになかったタイプです。なんとか打ちたかったのは確かですが、自分の力不足と、すごい人がいるということがわかったのでよかったと思います」(坂倉)しっかりしている。過去には捕手で野村克也氏、田淵幸一氏ら球界を代表するバッターが存在していた。高校通算25発。長打の実績あり。両氏を越える素材だ。

 水本監督にも聞いてみた。「いいバッティングをしています。選手の駒が不足しているチームなら1軍で起用しているかもしれませんね。センスとしては前田(現評論家、名球会・前田智徳氏)がはいってきたときぐらいのものを持っていますよ。でも、守りの方はまだまだですね。まだ低目の球を後ろへそらしたりしますし、これからですよ。何にしろ、キャッチャーですから。打てるからといって、そう簡単に1軍の試合では使えません。経験ですね。何事も経験することが大事です。やることは山ほどありますから」同監督、一昨年までバッテリーコーチをしていた人なだけになかなか手厳しい。

 キャッチャーほど身に付けておくべきことの多いポジションはない。坂倉は「まずは、キャッチャーとしてのやるべきことがしっかりできるようにしたいです。今は守りの方に重点を置いています」と自身の立場を心得てはいるが、簡単なことではないし、生やさしいことでもない。水本監督がいうようにやることは山ほどある。自軍投手陣の球種、ウイニングショットの把握。変化球の変化の度合い。相手打者の長、短所。投手リード。各ピッチャーの性格。ワンバウンド捕球。盗塁阻止の送球。状況判断。洞察力等々。数えあげればきりがない。現代野球は頭脳野球が主流。1軍マスクをかぶるようになるなら、もっと、もっとすべきことは高度になる。

 「捕手は守りにおける監督の分身」ともいわれる存在。高いレベルの技術が要求される。経験を積め。何事も貪欲に吸収せよ。結果より、努力する過程を重視して頑張れ。


【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)