ライバルが負傷した。即1軍に昇格した。早くもチャンスの到来だ。阪神北條史也内野手(22)である。6月30日、力不足のレッテル貼られて2軍落ちしたばかり。これから試行錯誤しながら、もうひとつ上の力をつけての1軍復帰かと見ていたが、想定外(早期)でチャンスをつかんだ。この世界、1軍の切符がこれほど簡単に手にはいるものではない。強運の持ち主…。努力のたまもの…。復帰戦では途中出場するやいきなり左前打を放っている。チームは勝った。幸先のいいスタートを切っている

 想定外とはいえ、プロ野球界では時々はある。弱肉強食の世界。食うか、食われるか。己の生活がかかっている。他選手に気をつかっている場合ではない。野生の動物が住むサバンナ同様うかうかしているものなら自分が餌食になるだけ。どんな状況にあろうと、チャンスをつかんだなら大いにアピールするべきなのだ。話題が少々横道にそれたが、今回の主役は鳴尾浜球場で見た北條です。

 体がひと回り大きくなった。大きくなったからといって動きが鈍くなったわけではな。全くの逆。ひのき舞台でプレーしてきた自負だろう。肝心のバッティングに関してはいまひとつ調子はあがっていないが、守備面では以前ファームにいた時とは全く別人の北條がいる。打球に対してのスピードがついた。打球を追うスタートの一歩目が速くなった。球際に強くなった。スローイングも思い切りが良くなった。送球時の全力投球はプロのプレーができるまでに成長した。まだ1軍の経験がなかった頃は、プレーひとつひとつのどこかにあったように見えたが、プロレベルの一線を越えるプレーは1軍の経験をして初めて身につくものともいわれるが、勘違いは禁物。昇格はあくまでも1軍レベルの力を身につけないことには始まらない。

 ライバル-。内野手全員だろう。ショートとなれば当然不動だった鳥谷の復活はあるだろうし、最近になってスイッチが板についてきた大和がいる。新人ながらメキメキ力を付けてきた糸原もいずれは帰ってくる。その中で北條に求められるのは「バッティングでしょう」と即答したのは掛布2軍監督である。昨年1軍で二塁、三塁、遊撃と122試合に出場。385打数、105安打、打率.273の成績を残している。伸びしろはまだまだ余裕がある。入団時の体はひと目見てひ弱に感じたが、今やたくましくなった。「80キロになりました。入団した頃に比べたら11キロぐらい大きくなりました」は北條。食事にじっくり時間をかけて食べるようにした努力が実った体重。体が大きくなったのに、動きもよくなった。今後の伸びしろを約束する証しだ。

 独立リーグとの交流戦後、掛布2軍監督に呼び止められて何やら話し込んだいた。北條は掛布チルドレンの1人。手とり足とり指導を受けてきた選手だけに的確なアドバイスがあったはず。同監督「何をすべきか、本人が一番よくわかっているはずです。今は技術的にはスイングするときに両腕が堅くなっていますので、バットがスムーズに振れていません。ファームにきてからも結果はいまひとつですが、だいぶよくなってきました。いずれにしろ、自分でやるしかありませんから」と、自分の力で現在の殻から脱皮することを期待していた。

 弱音は吐かないファイター。自分から進んで練習に取り組める選手。まず、何をテーマに鳴尾浜にきたかを聞いてみると「やはりバッティングです。今年は何故か、昨年まで打てていた右方向へ打てなくなってしまった。その点も含めて改めてバッティングを見直す機会だと思っています」と語り、そして、さらには「自分の力不足で鳴尾浜にきたんですから、頑張るしかありません。とにかくバッティングです。練習で打ちまくります。何とかこの状況は自分の力でクリアしたいです」と付け加えた。与えられた試練は自分に打ち勝つチャンス。やるべきことをやらずしていい結果は出せない。このままなえてしまうような性格ではない。想定外の昇格。答えがどうでるか…。注目したい。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)