元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。8回目は、選手会が要望している「FA宣言前に他球団の話を聞けるような制度変更は良いか悪いか」について検証する。

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【状況】

 日本プロ野球選手会は18日、東京都内で日本野球機構(NPB)と事務折衝を行い、フリーエージェント(FA)権を行使しやすくするため、宣言前に他球団の話を聞けるよう制度の変更を訴えた。

 選手会の森忠仁事務局長は、球団が宣言後の残留を認めない方針を取るとFA権を利用しにくくなると指摘し「他球団の話を聞いて判断できる方が(制度が)使いやすい」と話した。

 NPBの選手関係委員長を務める広島の鈴木清昭球団本部長は「他球団の話を聞くためにFAをするのだから」と難色を示した。

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 FA宣言前に他球団の評価を聞きたいというのは、ズバリ年俸を知りたいからだ。「評価=年俸」だから、そのための事前交渉となる。選手は当然、それがいいと言う。評価が納得いかないなら残留できるのだから。

 球団にとっては難色を示すのは当然だろう。年俸つり上げの交渉材料となり、球団同士のマネー競争は激化する。資本力豊かな球団が選手獲得に有利になるのは間違いない。

 メジャーと日本球界ではFAへ考え方が違う。メジャーはFAになってしまうものだが、日本はFA宣言するもの。文化も違えば、球団の資金力や規模も異なる。

 FAしたほうが給与は上がりやすいのは間違いない。しかし、他球団の評価で自分が思う「満額回答」を得られる選手は成績が抜きんでた一部選手に限られる。

 さらに別の見方をすれば、FA宣言前に評価を聞くことは、長い目で見ると選手にとっても球団が減少するリスクもあり、選手の雇用数が減るなど首を絞めることにもつながりかねない。

 球団も無い袖は振れないのだから、マネー競争に弱い球団は、FA選手補強がうまくいかず勝てない→チームは弱くなる→弱小球団ではファンが減る→広告やグッズ、入場チケットなどの営業収入が減る→球団経営の資金繰りに持ちこたえられず球団が身売り。球団が減ると選手の登録数が減り職場(球団)が減るといった具合である。

 もちろん、時代によって勢いのある企業が球団を買収していくから球団減少については杞憂(きゆう)だという意見もあるかも知れないが…。

 私の場合はこうだった。下克上で日本一になった2010年に国内FA権を取得した。もちろんいい年俸ももらっていたし。FA宣言するならいいタイミングだっただろうが、心は「ロッテ残留」で迷いはなかった。

 何よりやりがいや楽しみがロッテにはあった。98年のドラフトで入団。同年屈辱の18連敗があった後だ。万年Bクラスのどん底ロッテ…。今だから正直に言うが、引退するまで2度も日本一なれるとは思っていなかった。どん底のチームが日本一になれるから泣けるのだ。

 選手会とは反対意見になるのだが、FA宣言前の他球団交渉については個人的にはノーだ。FA残留が認められないのは当然だと思う。選手の不安を取り除き、欲望を満たすだけのルール変更は、野球界のためではない。先に述べた通り、球団が減るリスクも気になる。

 今回のルール変更とは少し違うが、2004年にストライキも味わった。平日の野球シーズン、ナイターで球場を照らすカクテル光線とスタンドの歓声が消えた。野球選手が職場を失った。野球がなければ、ファンに夢も、野球の面白さも伝えることはできないと再認識した。当時ロッテ、ホークスの合併騒動もあった。マネー競争の場に現場が揺さぶられるのは選手として望ましいことではない。(野球評論家)

 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「サトのガチ話」)