元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。33回目は「米大リーグの申告制投げない敬遠案はありかなしか」です。


 1月下旬にプロ野球実行委員会が開催された。ゲッツー崩しの悪質スライディングを禁止するルールについてリプレー検証の対象となることが決定した。この時期は日米問わず、ルール見直しや改善に向けた議題が上がる。

 個人的に気になるニュースが1つあった。米大リーグ機構が敬遠とストライクゾーンのルール変更を選手会に正式提案したというものだ。ストライクゾーンについては、日本でも過去何度も取り組んでいるが、時間短縮などを目的に、投手はボールを4球投げずとも意志を示すだけで打者を一塁に歩かせることができるというルール案には引っ掛かる。今回は「申告制の投げない敬遠」について考えてみたいと思う。

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 現役時代は私が捕手だったせいか、申告次第で投げずに済む敬遠があるなら、ディフェンス面で考えると率直にありがたい。敬遠は走者を背負う場面で起こるケースが多く、緊迫した場面でのピッチドアウト(外し球)は暴投の可能性があるからだ。受ける捕手としても緊張する。

 投手はちょっぴり加減して、ほどよくボールを外す。バッテリーもあれこれ気をつかう。「申告制敬遠」となれば、イージーミスが100パーセントあり得ない。

 いっぽう、面白みに欠けるのかなという気もする。かつては阪神新庄氏、巨人クロマティ氏が敬遠球を安打にしたシーンが語り継がれるが、日本でも導入されれば、そんな名場面は生まれない。

 申告制敬遠を提案した目的が納得いかない。「時間短縮-」。そんな目的で「時短追求」はやめてほしい。

 ネクストサークルから打席に向かう打者は、ゆっくり歩いているように見えるかも知れないが、いい結果を出すためにリズム感がもたらすもの。心技体を極限まで研ぎ澄ますルーティンが誰しもある。

 相手投手の間合いだと思えば、バッターは打席を外しリズムを崩す。打者の間合いだと思えば、投手がマウンドを外すのはいずれも戦術だ。選手は試合を長引かせようと思ってやっている動作ではない。

 野球やアメフットは攻撃、守りで作戦を立ててからの真剣勝負。勝負のはざまに「間合い」が詰まったスポーツだ。申告制敬遠にしかり、選手のパフォーマンスが落ちるような、時短策はいかがなものか。時短によって、プレーに圧力がかかることになれば、プレーの質が変わる。選手にとっては結果を出しにくい環境下におかれ死活問題となるかも知れない。

 どうしても時短にこだわるなら、1試合5~10分短縮する方法はある。試合中の花火、ジェット風船、チアガールのダンスをやめて、5回終了後の長いグラウンド整備も人工芝球場については簡素化すれば特効薬となる。念入りなグラウンド整備が必要な球場は甲子園ぐらいだろうか。

 時短を即実現させる手だてとして少々荒っぽい意見を挙げたが、反対側から見ると野球は興行、エンターテインメントの側面がある。ジェット風船のグッズ収入、花火で癒やしてくれる提供スポンサーの広告収入、チアガールの華麗なダンスを楽しみに球場に来るファン(チケット収入)のおかげで、選手も年俸をもらうことができる。

 時短でプレーの本質を変えてはいけない。間合いがあるからファンも一投一打を予想し手に汗握るゲームを楽しめる。「間合い」がなければラジオの野球中継なら実況だけ流れっぱなしで解説者いらずとなってしまう。結局、野球の試合で時間がかかるのは仕方がないと思う。

 1試合3時間以内を目指すなら甲子園の高校球児のようにやればいい。しかし、興行収入を多少なりとも犠牲にできるのか。興行収入のデメリットを選手に回し、野球の質を下げさせてはいけないと思う。

 メジャーの「申告制敬遠」は提案の段階で、今季導入されるかはまだ決定していない。ただ、時間短縮を目的にした導入なら反対だ。まわりを納得させる説明が大事だと思う。

 野球ファンなら「申告制敬遠」について、どう思うだろうか。

 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「サトのガチ話」)