「桧山型ラスト」へ-。能見篤史投手(コーチ兼任)は本気のようです。

今季限りでの現役引退を発表した能見投手にあいさつするため、先日、オリックスの練習が行われていた京セラドーム大阪に出向きました。

帰り際の同投手に駆け寄り「久しぶりに来て申し訳ないけど、現役生活、お疲れさまでした」と声を掛けると「わざわざありがとうございます」。深々と頭を下げる姿は相変わらず若々しいものでした。

取材のつもりではなかったけれど、少し気になっていることがあったので、つい、聞いてしまいました。

「クライマックスシリーズはどうするのか?」ということです。

普通に考えれば引退を決めた選手がプレーオフに出るケースは微妙。ズバリ出場しない場合も多いものです。

しかし同投手は「シーズンと同じですよ。今年は最後までやります」とキッパリ答えました。登板機会があるかどうかは別に最後まで1軍戦力としてCSに臨むということです。

そこで思い出すのは桧山進次郎氏(日刊スポーツ評論家)のこと。もう9年前になった13年のCSファースト・ステージ。2位阪神は3位広島を甲子園に迎えました。阪神はここで連敗し、敗退するのですが注目されたのがこのシーズン限りでの引退を表明していた桧山氏でした。

代打の切り札として、CSもベンチ入りしていた同氏。第1戦に代打出場。そして2戦目も打席に入りました。

9回、広島に5点のリードを許す展開。その2死一塁で代打に出ました。マウンドには当時、広島でバリバリのクローザーだったミコライオ。その154キロ、インハイのストレートを物の見事に右翼席にたたき込んだのです。

この本塁打について桧山氏は「人生最高のホームラン。22年間のプロ人生で1番いい打ち方、2度とできない打ち方だった」と振り返っています。

それまでは打ってもファウルにしかならないコース、球だったといい、それをプロ生活の最後の最後で本塁打できたことに自分で驚いたといいます。

もちろん能見投手もそれは知っています。「CSということは。ひょっとしてひーやんみたいな最後のひと働きを狙ってるのかな」と聞いてみたのです。

それにニッコリ笑って「できれば、そういきたいものですね」。能見投手は明るく、答えてくれました。

9月30日のロッテ戦。8回に登板。かつて阪神も獲得を目指した好打者・安田をものの見事に三振に切りました。

1人限りの登板による「引退試合」となれば、正直、打者がわざと空振りするようなシーンを見た記憶もありますが、この日に限ればそうではなかったと思います。それが劇的サヨナラ勝利につながったというのは言い過ぎかもしれませんが。

優勝か。2位か。ここまで来て、オリックスがどの順位でCSに進出するかはまだ分かりませんが能見投手の「桧山型ラスト」の可能性はあるかもしれない。そう思うとワクワクしてきます。【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「高原のねごと」)