2012年の春、高校野球界を一風変わった言葉がにぎわせた。

 「機動破壊」

 機動力を駆使した攻撃でセンバツ4強に進出した高崎健康福祉大高崎(群馬)の野球は、一躍注目を浴びた。代名詞の「機動破壊」のルーツを目で確かめるために、グラウンドに向かった。2月中旬、初めて見る練習風景もまた、高校野球界の中では斬新だった。

 取材当日、青柳博文監督(44)を筆頭に、ヘッドコーチ格の生方部長、投手や走塁を担当する葛原コーチ、Bチーム担当の沼田コーチら、充実のスタッフ陣がグラウンドに顔をそろえた。青柳監督は「高校野球の常識にとらわれず、適材適所でやっていくのがうちのスタイル」と説明した。見逃さないように、グラウンドの隅々に目を向けた。

 練習が始まった。選手の太ももには黒いバンドが巻かれ、1本の棒を持ちながら、ウオーミングアップが行われた。太ももに巻かれたのは「加圧トレーニング用ベルト」で、手に持ったのは「サプルバット」と呼ばれるトレーニング器具。導入したのは、トレーニングを担当する塚原謙太郎氏(42)だった。

 塚原氏は、加圧トレーニングによる3つの効果を挙げた。

(1)筋力アップ

(2)関節の可動域を広げる

(3)疲労回復

 加圧ベルトで締め付け、血液の流れを制限することで体はハードなトレーニング時と同じ状態になり、成長ホルモンの分泌が促進されるという。筋肉への負荷も大きくなることから、より短時間、軽い負荷の運動で効果を増幅させることが可能となる。

 塚原氏の根底には、自身の苦い経験がある。投手として、東京・淵江、東北福祉大を経て、社会人の名門・日本生命でプレーした。日本生命では「ミスター社会人」杉浦正則、福留孝介(現阪神)とチームメートだった。「とにかく体が強かった」福留とは対照的に、塚原氏は左肘、左肩、腰と度重なるケガに悩まされ、在籍5年で引退を余儀なくされた。

 塚原氏 当時、体の構造や仕組みなど、少しでも知っていれば違っていたのかなと。障害予防の面で何かできないだろうかと思って、今の道に進もうと決めたんです。

 現役を引退後、約2年間は社業に専念したが、自らの夢に向かって、退社を決断した。2年間、専門学校で勉強し、トレーナーの資格を取得。現在は複数の高校でトレーニングを指導しながら、大学では講師も務める。

 複数のスタッフをまとめあげる青柳監督は「それぞれの持ち場で、各担当が役割を果たしてくれる。これだけのスタッフがいるからいろんなところに目が届く」と全幅の信頼を寄せる。月3回のペースでダンスの講師を呼び「ダンストレーニング」も導入。高崎健康福祉大高崎の野球には、必須のトレーニングに定着した。02年の創部当初は専用グラウンドもなく、ギリギリの人数でスタート。「機動破壊」を生み出したのは、複数のスタッフによる「創意工夫」だった。【久保賢吾】