強豪、関大北陽に0-14で5回コールド負け。この大敗にも、藍野(北大阪)の屋我優輝内野手(3年)の顔は晴れやかだった。

 藍野は准看護師資格を取るために入学する生徒が大多数。屋我は同校を卒業した2歳上の姉を追って、沖縄から進学してきた。「小学1年の時からダンスやっています」。そう話す屋我の野球歴は、なんと9カ月。月見茂雄監督(35)の「100回大会に出たい」との思いで、昨年10月、部員を集めるところからここまで来た。最初に集まった部員は屋我を含む3人だけ。「人数が集まらなかった」。看護系のため女子比率が高く、全校生徒289人中、男子生徒は約20人。部員集めは難航し、今年4月、新入生が入り、ようやく部員がそろった。「ルールを覚えるところからの子もいました」。野球経験者はバッテリーの2人のみ。それでも、看護の勉強や実習後に練習に励んできた。

 屋我は持ち前の明るい性格から、生徒会長も務めている。この試合、学校応援の予定はなかった。しかし、生徒から「応援に行きたい」との声が多数上がり、生徒会長の屋我が、教員に意見を上げた。すると屋我の思いが学校を動かし、試合当日、学校は午後休校。バスを借り上げて約100人の生徒が応援に駆け付けた。「応援してくれたすべての人に感謝です」。応援席から、プレー1つ1つに歓声が飛ぶ。4回、相手を初めて0点に抑えると「藍野の奇跡や。ようやったぞ」と拍手が沸き起こった。

 屋我の高校野球は幕を下ろしたが「野球大好きです。これからもやっていきたい」と笑顔を見せる。「看護は、患者さんとのコミュニケーションが一番大事。野球をやってて学べたし、高齢者には野球好きも多い」。ひと夏の経験はきっと糧になる。「今は、アメリカに留学して、救急救命士になりたいと思っている」。夢をかなえるため、新たなステージへ。屋我の挑戦は、これからも続いていく。【鶴屋健太】