18年ドラフトは、高校生の逸材が視線を集めた。1位指名で大阪桐蔭・根尾昂内野手と報徳学園・小園海斗内野手に4球団、大阪桐蔭・藤原恭大外野手には3球団が競合。金足農・吉田輝星投手、天理・太田椋内野手も1位指名された。プロの世界に挑む高校生たちのこれまでの歩みを期待を込めて振り返りたい。

根尾が深々と頭を下げる姿に、こちらの背筋がいつも伸びた。「ありがとうございました」。試合後の囲み取材が終わると、ゆっくり丁寧に、お辞儀していた姿を思い出す。

根尾の能力と実績は、きっともう誰もが知っている。「二刀流」として活躍し、投手としては最速150キロ、打者としては高校通算32本塁打。2年春のセンバツで全国制覇を果たし、3年時には甲子園春夏連覇の原動力となった。

夏の甲子園の決勝終了直後。お立ち台に上がった根尾に、今の気持ちや今後について、質問が次々に飛んでいた。「常に勉強だという話をしてきて、優勝してまたこの試合でも勉強出来たことがあるのか、それとも完成した気持ちのほうが強いのか」という問いに、根尾はこう答えた。

「完成はしていないと思いますし、このチームの良さが、少しずつ試合の中で出てきたところで優勝して終わってしまった。このチームは終わりましたけど、次の代に引き継いでいくところもまだまだありますし、(新チームが)これで秋勝てなかったら意味がないので」

感嘆した。自分たちが春夏連覇を成し遂げた直後だ。喜びと達成感でいっぱいの熱気の中で、もう次のチームのことを気にかけていたのだ。

「3回全国大会制覇したという経験を、次の代に引き継いでいってこそ、やっぱり桐蔭だと思っている。この桐蔭の伝統というものを、引き継げるようにやっていきたい」

「自分たちのことというよりも、次の後のことが一番気にかかっているところでもある。まだまだグラウンドに顔を出しますし、1、2年生もこれから自分たちの経験を見て、生かしてまた春勝ってもらえるように、伝えていきたいなと思います」

根尾はお立ち台で、何度か新チームについて言及した。夏の甲子園最後の試合後取材で、常に先を見ている選手なのだと改めて感じた。

昨年12月下旬。中日に入団が決まった後の根尾を取材する機会に恵まれた。私は1つ、ずっと聞きたいことがあった。「心境の変化はあったのか」-。

春から夏へ、ドラフトが近づくにつれ「プロでも二刀流で挑戦するのか」という話題が大きくなっていた。夏の決勝直後のお立ち台で、そう聞かれた根尾は「とにかくプロに入りたいという思いがあります。今はそんなに考えていませんがショートかなと思います」と話していた。しかし高校日本代表として出場した9月のU18アジア選手権。最速を更新する150キロを記録した中国との3位決定戦直後の囲み取材では「ショートに絞ったつもりはない。もっと練習を積んでいってからじゃないと決められない」とプロでも二刀流で挑戦する可能性を示唆した。

10月の国体終了直後も、プロでも二刀流で挑戦? と聞かれ「やりたいとは言っても、それで取ってもらえるかどうかは分からない。話を聞いてみて、だと思います。ピッチャー、内野、外野、どこをやるか分かりませんが、どこを守ってもチームの勝利に貢献したい。長くやりたいと思います」とショートに絞るとは言っていない。何か心境の変化があったのか? ずっと気になっていたことを聞いてみた。

「あんまり覚えてないですけど、決勝の終わった後ですよね。なぜかショートと言っちゃったので、ピッチャーもやらせていただいてて、評価のところを考えた時にピッチャーでいくぞと思われていたところがなくなるかなと思ったら、ちょっとどうなんだろうと思って。ドラフトのこともありましたし。自分の中ではずっと(ショート)一本だったんで、言っちゃったみたいな感じです」

ドラフト前は、野手だけでなく投手として評価しているという球団も多くあった。投手として見てくれている球団もあるのに、自分が野手一本と宣言してしまったら…。そこまで考えていたのだろう。そんな根尾も、夏の決勝直後はやはり気持ちがたかぶっていたのか、ずっと考えていた「ショート1本」の思いがこぼれ出たようだ。

高校時代、根尾は同級生から尊敬の意味も込めて「根尾さん」と呼ばれていた。視野の広さと思慮深さは彼の大きな武器だ。プロの世界でも、若いころから「根尾さん」と呼ばれるような? 一流の選手になれると信じている。【磯綾乃】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)