終わる夏があれば、始まる夏もある。玉野商工(岡山)の1年生左腕、長谷川康生投手は大記録とともに彗星(すいせい)のごとく現れた。

2回戦の総社南戦(21日)。1回戦に続いて先発した背番号「11」の長谷川は、ノーヒットノーランを達成した。許した走者は四球の1人のみ。打者28人で試合を終わらせた。

一気に注目を集めて迎えた3回戦の倉敷商戦(23日)。先発マウンドに長谷川の姿はなかった。試合は1-15の7回コールド負け。長谷川は最後まで、マウンドに立つことはなかった。 初体験の夏、2戦を投げ終え左肩に張りが生じていた。角田監督は3回戦前日に登板回避を決断。試合後には「(長谷川が)2年、3年だったら投げさせていただろう。ただ、まだ経験も浅い。つぶす訳にはいかない」。どんな展開になろうとも、登板の選択肢はなかったという。

3回戦前日に登板回避を告げられた長谷川は試合後「自分で投げても、肩が張っていると。自分のピッチングができないのだったら、先発は(他の投手に)任せた方がいいと思った」。ベンチから先輩たちのプレーを見つめ「投げたい気持ちはあった」と悔しさをかみ殺した。

灘崎中時代は硬式クラブに所属し、エースとして全国制覇を経験。県内外の約20校から誘いがある中、関西高野球部OBである父の恩師、角田監督の元でプレーすることを決めた。一番自信のあるという最速141キロの直球にスライダー、カーブを操り、いきなり才能の片りんを見せた。

理想の左腕像は1人にとどまらない。「球のキレで言えばソフトバンク・和田毅選手。変化球はスライダーがすごい楽天の松井裕樹選手。全体的には、迫力もあるマリナーズの菊池雄星投手」。一流左腕たちのセールスポイントをそれぞれ参考に、最強の左腕を目指す。

1年生でのノーヒッターにも「これからもいいピッチングをしないといけないと思っています。ここはまだ通過点なので。何度もノーヒットノーランができるように」。何とも頼もしい言葉には、1年生離れした落ち着きを感じさせた。

3年生とは約4カ月の高校野球生活。「人数は少なかったですけど、すごい頼もしかったです」。感謝を胸に、新チームに向けて「気持ちを切り替えていきたい」と前を向いた。スーパー1年生のシンデレラストーリーは、まだ始まったばかりだ。【奥田隼人】