コロナ禍の前なら、ねぼけまなこをこすりながら抽選会場に急いでいた。

選抜大会の組み合わせ抽選会は例年、大阪市北区のオーバルホールで午前9時から開かれていた。各本社から出張してきた担当記者たちと開会前に顔を合わせ、打ち合わせをしながら会場入り。組み合わせが決まると、場内各所に設けられた取材場所に初戦で当たる2校の監督、主将が座る。好き放題に話しているようでいて絶対に相手をおとしめることのない明徳義塾(高知)・馬淵史郎監督や、おしゃれなスーツ姿にも気合がにじみ出る龍谷大平安(京都)・原田英彦監督らの話を聞くのが楽しみだった。

新型コロナウイルスのまん延で、状況は激変。大勢が集まる形はとれなくなり、今年の抽選日の4日は各校で主将が午後3時からクジを引いた。感染拡大を避けるため、その後の会見も大半はオンラインかコメント。その中で、対面取材ができた学校もあった。その1つ、金光大阪に出かけた。

大阪桐蔭、履正社の2強時代が続く大阪にあって、ときおり王者をあわてさせるのが金光大阪。07年夏は大阪大会決勝で大阪桐蔭に競り勝ち、全国最強打者と言われた中田翔(巨人)の高校最後の夏の甲子園出場を阻んだ。08年秋の近畿大会では、同年夏の全国王者・大阪桐蔭を準々決勝で倒した。実力校としての立ち位置は揺るぎないが、甲子園では春夏通算0勝3敗。全国1勝が遠い。

今春の初戦の相手は、日大三島(静岡)に決まった。同校を率いる永田裕治監督は報徳学園(兵庫)の前監督で、因縁の相手。中日のエースとして一時代を築いた吉見一起氏が主戦だった01年秋の近畿大会決勝で敗れた相手が、永田監督率いる報徳学園だった。

「甲子園の戦い方をよく知っておられるので。子どもたちは永田先生の経験を信じてやれるでしょうし。そういう経験は、甲子園というところでは大きい」と、横井一裕監督は敵将の経験が選手にもたらす影響の大きさをそう分析。ただ「甲子園初勝利。これは私たちも譲れない部分。甲子園で何が何でもまずは1つ勝つ、というところで野球部としての歴史も変えていきたいと思います。思い切り意気込んでなんとか勝ちたいと思います」と、カベを越える決意を熱く語った。表情の変化に、この春にかける思いが見て取れた。

練習を止め、監督は選手たちに初戦が20日に決まったことを伝えた。部の歴史を変える一戦に向け、横井監督は「20日を迎えるんじゃない。自分たちで、20日に向かっていこう」と呼びかけた。空気が引き締まった。そういう瞬間を見ることができるのも、対面取材の醍醐味(だいごみ)。以前は当たり前だった取材のありがたさをかみしめた。【堀まどか】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)