高校野球で今年から採用され、注目されているのが「継続試合」だ。悪天候などでもコールドゲームとせず、試合を中断し、後日続きを行う。意外に知られていないが、プロ野球にも「継続試合」はあった。

野球規則7・02で「サスペンデッドゲーム」(一時停止試合)が定めてある。いくつかの理由で、試合継続が不可能となった場合が対象となる。その日のプレーを打ち切り、残りを後日行う。英語の「suspend」とは「つるす」という意味だ。ベルトの代わりにズボンに装着する「サスペンダー」はここから来ている。

NPBでサスペンデッドゲームを採用していたのは、パ・リーグだけだった。これまでに計8試合が対象となっている。

最後に「つるされた」試合は、新潟・柏崎球場で87年5月23日に行われた南海-ロッテ7回戦だ。4-4で迎えた8回表、時に午後5時44分。日没のため試合続行が不可能となった。午前中の豪雨のため午後2時の開始を32分遅らせ、プレーボール後はまた雨で1時間4分の中断。同球場の球場開きとあり、試合を強行したのが理由だった。

当時の南海は大阪球場、ロッテは神奈川・川崎球場が本拠地である。また戻ってきて柏崎で試合をする訳にもいかない。苦肉の策として、当時フランチャイズ球団を持たなかった福岡・平和台球場が、7月8日の試合再開の舞台となった。

両球団はこの間、5試合を消化。当初から予定されていた13回戦の開始前に、7回戦が始まった。8回1死から再開した試合は9回、南海が河埜敬幸の左前打でサヨナラ勝ちを収めた。

足かけ47日がかりの試合である。珍事が続出した。平和台でロッテ高沢秀昭が8回に、南海山本和範が9回に安打を記録。柏崎と合わせ、3安打となった。地方球場の試合とあり、地元スポンサーから猛打賞の賞品が贈られる…はずだった。ところが、新潟の主催者側は「柏崎での安打だけを対象とします」。これには海千山千の好打者2人も「ついてないワ」とぼやいた。

柏崎に詰め掛けた1万2000人の観衆に対し、入場券の払い戻しはなかった。一方平和台の観客は、1試合分の入場料で前試合の続きを楽しめるという、幸運を味わった。

ところでサスペンデッドゲームを行うには、複数の条件がある。日没や照明の故障のほか、法律による娯楽制限も定められている。今季も新型コロナウイルスの影響で延期される試合が出た。さらにこの夏は、電力不足による停電の恐れまで取り沙汰される。ナイターの真っ最中に、球場が真っ暗になる事態など想像したくもない。88年以降は実施されていない、プロ野球の「継続試合」。何の不安も制限もなく、プレーを楽しめる日が「継続」するのはいつの日か。

【記録室=高野勲】(スカイA「虎ヲタ」出演中。今年3月のテレビ東京系「なんでもクイズスタジアム プロ野球王決定戦」で準優勝)