第104回全国高校野球選手権大会は、31日の西東京大会決勝(神宮)で49代表校が決まる。その西東京大会の準決勝、国士舘は昨夏王者の東海大菅生に対し、一進一退の攻防を繰り広げた。

延長10回表の守り。2番手右腕の小笠原天汰投手(3年)が先頭打者に四球を与えると、主将の石田諒人捕手(3年)は、すぐにマウンドへ駆け寄った。

「大丈夫。絶対、大丈夫だから」

激闘を楽しむかのように、口角を上げながら、仲間へ声をかけた。

大丈夫。絶対、大丈夫だから。

伝えた言葉は、いつもチームメートから、かけられていた言葉だった。

 ◇    ◇   

国士舘はノーシードながら、日大二や早大学院を下し、8強へ駒を進めた。

準々決勝は国学院久我山との対戦となったが、冬場に1日1500スイングを振り込んできた打線は、次々と鋭い打球を浴びせた。17安打の猛攻で8得点。8-2でセンバツ4強チームに快勝を収めた。

しかし、好調な攻撃陣にあって、4番の石田は4打数無安打。大会を通じて、なかなか結果が出せずにいた。「正直に言うと、打席に入るのが怖くて…」。そう思うほど、追い込まれていた。

それでも箕野豪監督(45)は、4番から外すことはなかった。打撃フォームのアドバイスも送ってくれた。チームメートも励まし続けてくれた。「お前は絶対大丈夫だから。捕手として、キャプテンとして頑張っているから、大丈夫」。いつも通り、明るく声をかけてくれた。

そのおかげで、気が楽になった。試合を楽しもうと思い、準決勝に臨んだ。

 ◇    ◇   

大丈夫。絶対、大丈夫だから。

そう自分に言い聞かせてバットを振ると、ようやく結果に表れた。

2打席目に左前打を放つと、1点を追う6回には、同点適時二塁打が飛び出した。捕手として、2度も盗塁を刺し、相手に流れを渡さなかった。

自軍ベンチからは「諒人ナイス!」と大きな声が送られた。気が付くと自分も、笑顔でガッツポーズを繰り出していた。

熱戦は延長へともつれた。10回表に1点を勝ち越されたが、その裏に2死三塁とし、3番の菊井力空外野手(3年)が打席に立った。

一打出れば同点の場面を、石田はネクストバッターズボックスから見つめていた。1ボール2ストライクからの4球目。祈りは届かなかった。菊井のバットは空を切った。石田はグラウンドに泣き崩れた。声を上げながら、大粒の涙を流した。

試合後、涙ながらに思いを言葉にした。

「箕野さんは、こんな自分をずっと4番で使ってくれて…」

チームメートには、感謝でいっぱいだった。

「お前は絶対大丈夫だからって、こんなに打てない自分にずっと言ってくれて。キャプテンとして、僕で良かったのかは分からないですけど、チームメートに恵まれたなって」

ネクストバッターズボックスでは、この1年の記憶が次々と思い起こされた。

「こんなに良い試合ができて、負けたとしても笑っているかなって一瞬思ったんですけど。試合が終わった瞬間に、つらかったことが全部よみがえってきた」

初めは怒られてばかりだったこと。何度も主将を辞めたいと思ったこと。練習に行きたくない日もあったこと。

その苦しかった道のりは、最後の夏の大熱戦へとつながっていた。

「打席に入るのが怖くて…」。抱いていた恐怖感も、仲間や監督のおかげで、拭うことができた。「今日は打席に入るのが本当に楽しかった」。涙で声を詰まらせながらも、はっきりとそう言った。

大丈夫。絶対、大丈夫だから。

石田はこれからも、苦しい時ほどそう言い聞かせる。【藤塚大輔】

国士舘対国学院久我山 ほとんどの場面で相手打者のバットを拾う国士舘・石田(撮影・藤塚大輔)
国士舘対国学院久我山 ほとんどの場面で相手打者のバットを拾う国士舘・石田(撮影・藤塚大輔)
国士舘対国学院久我山 真剣な表情で打席に立つ国士舘・石田(撮影・藤塚大輔)
国士舘対国学院久我山 真剣な表情で打席に立つ国士舘・石田(撮影・藤塚大輔)