名古屋から豊橋に移動する約1時間半のバスの車内はどんなムードだったろう。余計なお世話だがそんなことを考えてしまった。今季、1軍がバス移動する日程はナゴヤドーム2試合、豊橋1試合と続くこの遠征だけ。シーズンでたった1度の夜が自力優勝消滅の夜になった。つらい偶然だ。

偶然と言えば、昨季も阪神の自力優勝が消えた日に先発したのは中日の松坂大輔だった。これも虎党には頭を抱えてしまう偶然かもしれない。

もちろん数字上のマジックである。それでも現実的に逆転優勝は奇跡に近くなった。昨季、最下位に沈んだ阪神。指揮官が代わっても最下位から簡単に優勝はできない。野球好きならみんな知っている。

野球好きなら知っていることは他にもある。「4番打者が打たないと勝てない」。絶対にそうだとは言えないが、この日はそれが目についた。序盤フラフラだった松坂を仕留められなかったのは大山悠輔の打席によるところが大きい。

1点を先制した1回、なお1死一塁というところで松坂の初球を打ち上げ、中飛に倒れた。3回2死二、三塁で四球を選んだ。5回、再び1死二、三塁のチャンスで巡ったが中飛に倒れた。これで後半戦2試合でまだ安打がない。

「大山選手はよくメディアに責められますね。どうしてでしょう」。こんなグチを球団フロントから聞くことがある。ここでも責めているつもりはないがクローズアップされる理由は「4番打者だから」だ。

「調子が上がってこないというか、ずっと打てていないのはそうですけどね。でもまだ五十何試合か、あるし。いつも言いますけど自分で打破していかないと、これはしょうがない」

打撃コーチの浜中治は厳しい表情で言った。星野仙一が率いた16年前の阪神で自身も若き4番を務めた経験があるだけに大山の気持ちも分かっての発言だ。

大山はシャイというか寡黙だ。人間、選手にはいろいろなタイプがいる。それは当たり前だし、個人の勝手だろう。「男は黙ってサッポロビール」。こんなCMを若い人は知らないかもしれないが、黙って結果を出せば、こんなにかっこいいことはない。だけど寡黙で結果が出なければ、ムードは重くなるだけ。これも当たり前のことだ。大山が打って、連敗を止めて、スカッといきたい。いまはそれしかない。(敬称略)

中日対阪神 8回表阪神2死、投ゴロに倒れる大山(撮影・森本幸一)
中日対阪神 8回表阪神2死、投ゴロに倒れる大山(撮影・森本幸一)