「松坂、打たれたなあ。でも頑張ってるよな。俺も粘って粘っていくで」。1点差の延長11回。マウンドに上がる藤川球児はそんなことを考えていた。
この日のナゴヤドーム。DeNA打線を相手に1死しか取れず、8失点でKOされた中日松坂大輔のことだ。「松坂世代」の仲間というだけでなく、球児と松坂は仲がいい。ゴルフで松坂がホールインワンする場面を2度、目撃したことがあるというのが自慢だ。
同い年のスターに負けないという気持ちもあって現役を続けているが、この日ばかりはエールを送る粘投になった。抑えに戻ってきた右腕が2試合連続セーブ。2四球、安打で32球を要したものの最後は1点差を守り切った。
「重いゲームだったしね。あっさりとはいかんやろうと思ってた。本当の話、疲れているタイミングでクローザーになってるんで。まあ点数差を守るということだから。いろいろあるけど、ご容赦願いたい」
この21日に39歳になったばかり。そんな男がかつて君臨した抑えの位置に戻ってきているというのも冷静に考えれば驚くべきことなのだが、そう感じさせないのが球児のスゴみだ。
「ベテランと呼ばれるのは好きじゃないんで。だってグラウンドに立っている以上、年齢は関係ないでしょ」。日頃、そう言う姿を証明した。火の玉といわれたストレートはもうないかもしれないが、これまで培った経験で抑える。そんなすべてがプロだ。
裏事情を明かせば、このコラムのために松坂のことを聞きたかった。虎番記者の質問が終わった後「直接、関係ないんやけどね」と切り出したこちらに球児は自ら「松坂?」と言って、話し始めた。
「先発投手はデータも出されるし、研究されるしね。(投げるまでに自分が)構える時間も長い。抑えみたいに行け! と言われて行くんじゃないしね。難しいですよ。でも彼も不死鳥。不屈の闘志でまだまだやるでしょう」
ともにドラフト1位で入団。大リーグを経験し、日本に戻ってきた共通項もある。球児も阪神復帰後は先発投手を目指していたが、結局、定着することはできなかった。そんな経緯もあって松坂の苦しさが分かっているし、リスペクトもしている。だからこそ頑張ってほしい。俺もやるで。球児も間違いなくG倒連勝の立役者だ。(敬称略)