今季の中日戦はある意味で注目されていると思っている。コロナ禍による開幕延期、無観客試合もあり、注目されなくなったが、昨年オフから阪神は一部で“陰口”をたたかれていた。それは「中日タイガース」と表現される。

打撃コーチに井上一樹、春季キャンプでの臨時投手コーチに山本昌を招いた。すでにヘッドコーチとして清水雅治がおり、内野守備兼走塁コーチの久慈照嘉、外野守備兼走塁コーチの筒井壮、新しく1軍コーチとなった新井良太と中日OBが並ぶ。何より指揮官・矢野燿大が中日から移籍し、スターになった人物だ。

矢野にすればプロ生活のスタートとなった中日に多くの知己がいるのは当然でそこに協力を求めた形だ。だが熱心な虎党や一部OBから「中日ばっかりやな」という声が上がっていたのも事実。その辺りを今年の正月インタビューで矢野にぶつけてみた。

「すごく小さいなあ、と思う。なんでそういう話になるのかなって思いますね。僕は選手にとって何が一番いいのかな、というところで判断させてもらっています。なんでそういうところにこだわるんかなあ」

矢野は率直にそう答えてくれた。その考えをおかしいとは思わない。事実、広島のように組閣についてOBにこだわる球団もある。それとはポリシーの違いで、どこの出身にこだわらず、チームにいい効果があると思う人物を起用するのは納得できる。

中日サイドが今回の矢野阪神の動きをどう感じているかは、正直、分からない。それでも自軍のOBが多く尽力する状況については注目しているのではないか。勝手にそう思っている。

闘将・星野仙一が中日から阪神に“電撃移籍”した01年オフの衝撃を覚えている。虎番担当キャップだった03年、星野が中日を強く意識しているのを感じた。中日もそうだった。圧倒的な強さでリーグ優勝を決めた03年の阪神だったが中日にだけは負け越している。そこにプロの面白さとおそろしさを感じた。

なにより勝負の世界である。どんな策をとっても好結果が出れば「よかった」とたたえられるし、ダメなら「何やってんねん」とけなされるのは、この世界の避けられない事実だ。中日と阪神、現状は最下位争い。その中日に甘く見られるような結果になってはならない。ふがいないこの日の戦いを見て、思った。(敬称略)

中日対阪神 試合終了、ガックリの矢野監督(撮影・森本幸一)
中日対阪神 試合終了、ガックリの矢野監督(撮影・森本幸一)