巨人にばっかり味方してるんちゃうか。などと昔ならカッカしているところかもしれない。1回、近本光司の三ゴロ。7回、巨人増田大輝の三盗。いずれもリクエストの結果は阪神に不利、巨人に有利な結果に終わった。ビデオで見る限り、正直、どうかなと思ったが判定は判定。それ以前に、当然だが、問題はそんなところにはない。

勝敗はともかく東京ドームでもあるし、打ち合いを期待するのだが連日の無得点とは。前日はエース菅野智之だったからあきらめもつくが、この日は相手先発がアクシデントで早々と降板。にもかかわらず1点も取れないとは。これで東京ドーム5連敗。巨人に7敗は5球団でワーストだ。

もちろん打てないときは誰でもあるし、勝敗は時の運だ。気になるのは阪神の選手にいわゆる“覇気”がないというか巨人を倒してやろうというムードが感じられないことだ。

いつも書いて恐縮だが闘将・星野仙一が生きていたら、試合を見ていたら「何をやってるんだ!」と怒り狂って大変だったろうなと想像する。星野の阪神監督就任には「伝統の一戦」が関係しているからだ。

01年オフ、阪神から監督のオファーを受けた星野は悩んだ。現役からドラゴンズ・ブルーひと筋で生きてきた中日監督を退いたばかり。それがいきなり阪神とは。さすがにないわな。迷っていたとき、1本の電話がかかってきたという。

ミスタープロ野球こと長嶋茂雄からだ。言うまでもない巨人軍終身名誉監督である。「仙ちゃん」と呼び、親交の深い星野に対し、長嶋は電話の向こうで声を荒らげた。

「仙ちゃん! 何を迷ってんだよ! やれよ! もう『伝統の一戦』なんて、ないんだから!」

長く続く阪神の低迷。長嶋が現役時代、死闘を繰り広げた巨人と阪神の「伝統の一戦」はすでに有名無実化しているではないか。ここは自身同様に「燃える男」と呼ばれる星野が指揮を執って、阪神を生まれ変わらせろ。そんな長嶋の熱い気持ちが「星野阪神」誕生の裏にあった。

長嶋の肉声を聞く機会は減ったし、星野はもうこの世にいない。それでも2人の熱い気持ちは永遠だ。勝敗だけではない。見ていて面白い。ワクワクする。さすが巨人阪神。虎党だけでなく、野球ファンはそんな「伝統の一戦」を待っていると思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)