昔話から始めさせていただく。阪神・淡路大震災からの復興を誓う「がんばろう神戸」のキャッチフレーズの下、オリックスが優勝した95年だ。日本シリーズはイチロー擁するオリックスと知将・野村克也率いるヤクルトの対戦になった。

「なんかウチから出ていった選手が、ようけ活躍してるみたいですなあ」。頂上決戦を横目にそういう風にボヤいていた人物がいた。阪神の名物オーナーだった久万俊二郎だ。

当時、オリックスの先発スタッフには野田浩司がいた。ヤクルトの主軸打者にはオマリーが座っていた。いずれも阪神で働いた後にトレードで放出した選手。その2人が投打の主力となっているチーム同士の日本シリーズを嘆いたのだ。そのシーズン、阪神は最下位に沈んでいる。

トレードで放出した選手が古巣相手に活躍すると「恩返しをした」などという表現を使う。巨人の優勝は揺るがないとしてパ・リーグでロッテが日本シリーズに出てきた場合。沢村拓一が巨人打者を抑えたときなどそのフレーズがメディアで踊ることだろう。

沢村に関しては実際に、その働き場所をつくってあげるために放出した流れのようだし、言葉通りの意味で“恩返し”になる。

だが実際はきれいごとばかりではない。トレードもそうだが特に戦力外にした選手が他で活躍したり、ましてや自軍に対して結果を出したりすれば穏やかではいられない。「どこ見てたんや。自分とこで育てられんかったんか」という批判が起こるからだ。

阪神にとって16日ヤクルト戦で先発してきた歳内宏明など典型的な例だろう。11年、聖光学院からドラフト2位で入団。将来のローテーション投手へと期待されたが、昨季、戦力外通告となった。仮に歳内に抑えられていれば、それでなくても停滞気味のムードがさらに加速したはずだ。

その意味で西勇輝、大山悠輔、そして梅野隆太郎と現在の主力で勝てたことはそれなりに大きかったと思う。もちろん苦労して第一線に戻ってきた歳内にも頑張ってほしいのだが。

試合終盤、歳内と同じく「高卒ドラフト2位」で入団してきたルーキー井上広大がプロ初安打を放った。これから大きく育つか。それとも-。もちろん本人次第だ。しかし同時にチームの責任も重要だと、あらためて考えさせられるゲームだった。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)