長い試合だったが「いいな」と思った場面はゲームが始まってすぐに訪れた。ヤクルトの先頭打者エスコバーが内野への飛球を打ち上げた。これに対し、今季初スタメンだった二塁・板山祐太郎、遊撃・小幡竜平、そして三塁・大山悠輔が駆け寄る。

最終的に二塁方向へ流された打球だったがグラブへ収めたのは大山だった。草野球風に「オーライ!」と言ったのか大リーグ風に「アイ・ガット・イット!」と叫んだのかは分からないが意思をしっかり示し、捕球したようだ。その様子が頼もしかった。

2回にもこんな場面があった。1死一、二塁で打者の小川泰弘は犠打。捕手前に止まった球を梅野隆太郎が素早く処理し、封殺を狙って三塁へ送球しようとした。だがバント処理に備えて大山も前に出ていたので三塁ベースカバーはいない。すると「一塁!」と左腕を伸ばす大きなジェスチャー。これを見て梅野は1度、腕を振ったものの球は離さず、一塁へ送り直した。

大山が新人だったとき「守備がいい」と感じた。特に一塁へのスローイングがほとんどストライク。この面はすでにレギュラー級と思っていた。だが徐々にミスが出始め、それが目立たなくなってきた。それでもプロはちゃんと見ていた。

「大山の三塁守備はセ・リーグでトップクラスのレベルですよ」。そう言い切ったのは大山の入団時から昨年まで敵として戦った広島の前指揮官・緒方孝市(日刊スポーツ評論家)だ。今季最初、スタメンから外れていた大山に「守りを考えれば絶対にベンチに入れておきたい選手ですね」とも言っていた。

堂々とした様子の守備。それは自信の裏返しだろう。この日もきっちり結果を出した打撃では本塁打キングを狙うまでになった。しかも発展途上。まだ上積みの可能性が感じられる。おとなしそうに見える男も少しずつ自分を出せてきたということかもしれない。

そこで思うのが「守備の要」という点だ。失策が多い阪神、1つの理由はキーになる内野手がいないという面もあると思う。鳥谷敬がいたときは、なんだかんだ言っても鳥谷のところに飛べば大丈夫という安心感があった。今はそれがない。もちろん遊撃と三塁は違うのだけれど、主砲・大山に守りでもそんなムードを感じられれば守備陣全体も落ち着いてくるかも-と期待してしまう。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)