苦手の交流戦。阪神は初戦でいきなり「正念場」を迎えたと思う。直接の敗戦理由は8回、岩崎優が逆転本塁打を浴びたことだろう。しかし流れはその前に変わっていたと見た。

2点リードの7回、先発・西勇輝がロッテの代打・鳥谷敬に適時打され、1点差に迫られる。一塁ベース上で鳥谷は「よっしゃ!」とばかり闘志を見せた。期するところがあったのだろう。過去に、あまり見た記憶のない光景である。

言うまでもなく、かつての阪神を代表する選手だ。今でもファンは多い。甲子園が沸いたのも自然だろう。「鳥谷敬が打って、阪神が勝つ」。虎党にとってはそれが最高のパターンではなかったか。しかしプロの世界は甘くない。

鳥谷が阪神を去った19年の“騒動”は記憶に新しい。阪神は戦力外を通達すると同時に将来の指導者方針を見据え、球団残留を希望した。だが現役続行の意思を持っていた鳥谷はその申し入れに同意せず、退団。ロッテと選手契約し、今に至っている。

当時、阪神は「非情」と言われた。しかしこの手の問題はどこでも起こる。球団が新陳代謝を図るのは当然だからだ。どれだけ貢献したベテランでも時が来れば戦力外になる。同時に選手も自身の意思を持つ。鳥谷の場合も双方の考えが一致しなかっただけ。どちらかが悪いわけではない。

フロントの一存でもなかった。指揮官・矢野燿大とも相談の上だ。昨年オフ、福留孝介、能見篤史を戦力外にしたことも同様。監督としては難しい決断を迫られる問題である。

「そこがやっぱり1、2軍の監督の違いであり、難しさです。彼らがまだやれることは分かっている。それでもチームづくりのためベテランが多いと若手に経験を積ませていくことができにくくなる。そこの判断がめちゃくちゃ難しい」。ベテランの戦力外について矢野はそう話していた。

苦渋の決断を乗り越え、阪神はいま首位を走るチームになっている。阪神の現役選手には関係のないことだけれど、やはり、その意味は重い。このロッテ3連戦、阪神にとって最悪なパターンは「鳥谷に打たれて負ける」ことだと思う。

繰り返すが勝負の世界は厳しい。「トリさん、覚悟!」とばかり気迫を込めて阪神バッテリーが鳥谷に向かっていく。そんな姿勢なしで勝利をつかむことは難しいのだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対ロッテ 7回表ロッテ1死一、三塁、代打鳥谷は右前適時打を放ち一塁で雄たけびを上げる(撮影・上山淳一)
阪神対ロッテ 7回表ロッテ1死一、三塁、代打鳥谷は右前適時打を放ち一塁で雄たけびを上げる(撮影・上山淳一)