もったいない。粘った。巨人の2位浮上を消滅させたこのドローにはどんな表現がぴったりくるのだろう。「う~ん」と思わず声が出たのは同点の8回だ。この日、3番でスタメンだった近本光司が初めて先頭打者で打席に入った。得意の初球攻撃で左前打をマーク。無死一塁。絶好の勝ち越しチャンスである。

土壇場の勝負どころ。ここは盗塁だ。必ず走らせる。そう思っていたらマルテが初球を打って最悪の併殺打。4番の前でチョロチョロしないという考えもあるが勝ちを狙いにいく試合だ。指揮官・矢野燿大の目指す野球ならスタートを切らせる場面のはずだった。

それなら外国人だけに難しいがサインを出し「走るまで待て」と徹底してほしかった。チームが好調時ならそうしただろう。しない、あるいはできないのはそれだけ追い込まれている証明かもしれない。それでも、だからこそ、積極的な「オレたちの野球」が必要なのでは…と思った。

試合がおかしくなったのは西勇輝のアクシデントからか。立ち上がりから重い。どこか悪いのか? と言いたくなる様子だ。2回、勝ち越される2点目を与えたところで右手を振り、自らマウンドを降りた。

捕手・坂本誠志郎があぜんと後ろ姿を見送る中、投手コーチ・福原忍が駆け寄って話しかけても視線を合わせずベンチ奥へ下がった。試合前まで142イニングを投げていた西勇。偶然にも「一流の証明」とされるシーズン既定投球回数に達した直後の降板劇となってしまった。

「現状、すごい大きなところ(故障)はないと思っているんだけど…。肩、肘? 肘かな」。降板時にベンチで目を丸くしていた矢野。記事にもある通り、虎番キャップたちの取材に対して、そう話すしかない状況だったようだ。

体の異常ならそれは仕方がない。しかしエースとされる男のまさかの降板劇はショックを与える。しかしその後を受け、すぐに準備することができた馬場皐輔から伊藤将司、アルカンタラ、そしてスアレスの無失点リレーは間違いなく称賛できるものだった。

いい面、そうでない面、さまざまな要素が入り交じったドローだ。そして今季の残りはひと桁の9試合になった。望むのは最後まで文字通り自分たちのスタイルで戦い切ることだ。それができなければ悲しいではないか。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)