アントニオ猪木が好きだった。アリとの決戦があった76年6月は中学1年。日本での生中継は土曜の昼だ。当時、土曜は「半ドン」。でも登校すると試合に間に合わないかも。「しんどいわ」。そう言って休み、テレビを見た。

当時、猪木アリ戦は不評だった。ネットなどない時代。それでも週刊誌などメディアの評価はよくなかった。茶番劇とも言われた。その後、総合格闘技が生まれる過程であの試合の意味が見直されたのは興味ある人なら知る話だろう。なにより、あんなにワクワクしたこともなかった。

プロ野球のクライマックスシリーズ(CS)にはいろいろな意見があるようだ。勝率5割を切って進出することに意味があるのか、という指摘も多い。人それぞれに考えがあるのは当然。この意見も理解できる部分はある。

しかし同時に感じるのだ。ここ数日のプロ野球。ズバリ面白い。パ・リーグなんて、本当にもうどうなるのかという感じである。この日、首位ソフトバンクがサヨナラ負けし、2位オリックスは試合がなかった。ホークスの「M1」のまま2日、両軍の最終戦を迎える。まさにドラマだ。

そしてセ・リーグ。この日、巨人がDeNAに負け、阪神の3位が確定した。来週のCSファーストステージはDeNAと阪神が戦う。指揮官・矢野燿大にすれば1年目の19年とまったく同じ状況になった。

「もう今年は、矢野の野球はエエわ。はよ来年の新体制に向け、スタートしろ」。そんな声も一部にあるようだ。何を言っても勝手だが、その手の話に触れると「それで面白いのかな。プロ野球を、阪神を好きなのかな」と思う。

CSは少しでも消化試合を減らし、興味をつなごうという制度。その狙いはかなり当たっていると思う。そして阪神はギリギリでそこに残った。来季以降はともかく、今年、まだ試合がある。これを楽しまないのはもったいないではないか。そう思う。

19年はDeNAを倒し、巨人の前に敗戦。途中、台風の影響で東京ドームなのに試合中止になるおまけもあった計150試合の戦いだ。今年はあと、何試合の戦いを見られるのか。「これで終わりかと思うと少し寂しい」。あの年、矢野はそう言った。今度はどんな気分になるのか。とにかくワクワクさせる戦いを見せてほしい。強くそう思う。(敬称略)

【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)