このキャンプ、結構な失敗をした。毎年、この時期、近本光司にあるモノを手渡している。かつて日刊スポーツ大阪本社の最寄り駅だった阪急宝塚線、その名も「服部天神」駅にある服部天神宮のお守りだ。

ご存じの方もいるだろうが日本で唯一とされる「足の神様」を奉る神社。ガンバ大阪のメンバーも参拝するし、あの羽生結弦が故障した際には治癒を願う絵馬もあふれた。

本社にも毎年、福娘とともに訪れていただくこともあり、取材する選手の一部にお守りを贈っている。近本には入団以来だ。「ありがたいですね」と近本も自身のリュックにそれをくくりつけている。

今年も…と思い、キャンプ・インに合わせ、紙袋に入れて渡した。ところが数日後。「あの~」と近本が申し訳なさそうな顔で近寄ってきた。「こないだのお守り、袋だけで中身がなかったんですけど…」。

なんと。いつの間にか落としたのか。いろいろな意味で申し訳ない。猛省しながら先日、渡し直した。移動中の一瞬だ。

そのとき近本は島田海吏と2人でゆっくり歩いていた。「申し訳なかったね」と渡しながら、同じく足が売りの島田にも「今度、島田選手にも渡すわ」と声を掛けた、そのときだ。

「あげなくていいですよ」。近本がそう言う。ん? そう思って「どういうこと?」と聞き返すと「だから。いいですよ」と笑って重ねる。これには島田も「なんでですか?」と苦笑するしかなかった。

ここでひらめく。新指揮官・岡田彰布の下、活気あるキャンプの最大テーマは定位置争いだ。各ポジションで安泰なのは捕手・梅野隆太郎、二塁にコンバートされた中野拓夢、それに中堅・近本光司のセンターラインだ。

さらに大山悠輔、佐藤輝明というところだろうが、先日、視察に訪れた緒方孝市(日刊スポーツ評論家)はこう話していた。「いまレギュラーを約束されている選手だって先は分からんですよ。ウカウカできない」。それほどの争いが続いているということだ。

それでいけば近本のライバルは島田か。同じ左打ちの俊足。冗談とも思うが「自分と同じものを島田にあげなくていい」というのは結構、本音かもしれない。そうならプロとして当然のこと。主軸も危機感を持つ状況は「アレ」のために喜ぶべきだろう。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神島田海吏(2023年2月15日撮影)
阪神島田海吏(2023年2月15日撮影)