出た。出ました。見ましたか。あの喜びよう。両手たたいて大声出して。あれですわ。あれが指揮官・岡田彰布です。プロ野球の監督で、ホント、あんな喜び方する人もめずらしい。前任者の矢野燿大も1年目は「矢野ガッツ」と言って笑顔を出していたけど、それとは種類の違う喜びぶり。ひと口に言って虎党のようなはじけ方なのだ。
もっとも喜んだのは5回、小幡竜平がスクイズを決めた場面。それはうれしいだろう。今季初めて大幅にオーダーを入れ替えて臨んだ試合。そこで起用した前川右京、ミエセス、小幡がみんな活躍し、決断がピタリはまったのだから気分も高揚するのも無理はない。
しかし、うれしかったのはそれだけではないと思う。自身が理想というか、勝つためにもっとも近いと思う戦いができたという面もあるのではないか。
象徴的なのは1番・近本光司である。3、4回、そして6回に四球を選び、攻撃面で岡田阪神が重視する四球の力を見せた。近本の1試合3四球は今季最多タイ。5月11日のヤクルト戦(甲子園)以来だ。
その試合は石井大智が初勝利をマークしながら腰痛で登録抹消されたゲームだ。その石井はこの日、ファームの広島戦(鳴尾浜)で復帰登板した。その事実と近本が3四球を選んだことに直接の関係はないけれど、なんだかうれしい。
投手陣も同じだ。先発の西勇輝を含めて登板した4人が出した四球は1つだけ。それも西勇が緊急降板した後を受け、6回途中から投げた及川雅貴が最初の打者に出したものである。あそこは正直、仕方のない部分もあるし、独断と偏見で言わせてもらえば、及川はこの試合のMVPに選ばれてもいいと思う。
投手は制球力、打者は選球眼。「もらう四球」は大好きだが「与える四球」は大嫌いなのが岡田である。それをはっきり顔に出したのは延長12回ドローになった5日のロッテ戦だ。
自軍が1四球しか選べなかったのに投手陣は8投手で9つも四球を出した。「四球、多かったのお。ビッグイニングになるからの。そういうことやん」と不機嫌になったものだ。
それから2日。チームにカツを入れるオーダー変更も的中し、65歳の笑顔がはじける。こんな喜び方が今後、どれだけ見られるだろうか。その回数が増えるたびに「アレ」に近づくのかもしれない。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)