それにしても佐藤輝明は面白い。そう思う。3回に先制適時打。5回には敵のミスが出た直後の無死一、二塁で23号3ランをかっ飛ばす。さらに6回の守備では堂林の三ゴロを素手でキャッチ。ピシッと一塁に刺す好守も見せた。誰が見ても、ここまでは100点に近い働きだったと思う。
その流れで迎えた7回だった。5-3と阪神が2点リード。また無死二、三塁の好機。ここで佐藤輝に4度目の打席がまわる。普通に引っ張って打てば安打でなくとも1点は入りそうな場面。ここで得点すれば、まずはダメ押しだ。
だが、ここで佐藤輝は遊飛を打ち上げてしまう。その後、1死満塁になってから坂本誠志郎に6点目の適時打が出たものの、やはりというべきか、最終的に試合は接戦になり、なんとか6-5の1点差で逃げ切ったのである。
解説をしていた広島OBの前田智徳は「佐藤輝選手がここをどう考えていたか、少し疑問ですね」という趣旨の話をしていた。プロなら、一流なら、当然、そう思う場面なのだろう。
すべて打つことはできない。当たり前だ。しかし試合の流れを考え、ここはどうすべきか…と考えるのは大事だろう。今季は指揮官・岡田彰布にその部分を指摘されたこともあった。並みの選手なら難しいかもしれないが佐藤輝のレベルならなあ…と思う。
少し前のこと。今季、野手で貢献度が高い、つまり年俸の上がりそうな選手は誰かという話題で球団関係者と雑談した。優勝決定の前だったと記憶する。こんな話だった。
「野手では、まず近本(光司)でしょうね。あとは中野(拓夢)、大山(悠輔)でしょう。木浪(聖也)も頑張りましたね」
なるほど。うなずいたがレギュラー格で名前が出てこない選手が1人、いた。言うまでもない佐藤輝明だ。本塁打、打点ともチームトップ。佐藤輝もでしょ…と言ってもいいのだが妙に納得してしまった。
嫌みでなく、こういうところが面白いのだ。何というか、そこが佐藤輝の魅力かもしれない。誰でもミスはする。常に満点は取れない。人間は皆、そうだろう。元々、虎党はそういうことが理解できるタイプのはず。実力者の佐藤輝でも「あかんとこもある」ということだ。そこも含めて「スター」と思う。日本一を目指すポストシーズンも佐藤輝から目を離せない。(敬称略)
【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)