東北地方に住む大学1年の外野手は、スローイングの違和感に悩んでいる。矯正のため、トレーニングサポート研究所の松尾明氏(48)を訪ねてきた。

 全国的にも有名な甲子園の常連高校でもメンバー入りし、外野手として活躍した。しかし、当時から送球に苦しんでいたという。

 現在もイップス克服に向けて取り組んでいることから、実名は出さずA君としたい。


 A君 最初におかしいと思ったのは中学時代です。当時は投手と内野でしたが、肩を壊して2、3カ月ほど投げられない時期があった。戻った時に「あれっ、何か感覚がおかしいな」と思いました。でも、そのまま続けていました。


 高校入学後の練習でボール回しをした。ホーム、一塁、二塁、三塁に選手が分かれ、1つのボールをつなぐ。1人でもミスをしたら、やり直しというルールだった。A君は上級生に交じっていた。


 A君 そこで暴投をしてしまったんです。そこから投げるのが怖くなってしまいました。


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 昨年12月のレッスンは神奈川県内で行われた。同10月に最初のレッスンを受けた後、1カ月ほどは調子がよかった。だが、再び違和感が出てきたという。

 松尾氏がいくつか質問をした。するとウエートトレーニングで疲労した状態で投げていたことが分かった。


 松尾氏 それかもしれないね。疲労状態でキャッチボールをすると感覚が鈍る。それを手先で修正しようとすると、混乱するからね。キャッチボールはウエートの前、または時間を置いてからの方がいい。


スローイングに悩んでレッスンに訪れたA君(右)
スローイングに悩んでレッスンに訪れたA君(右)

 そうした会話の後で、キャッチボールが始まった。

 A君はテークバックに入る。ここまではいい。だが、そこからトップへ動いていかない。1度止まり、その後は動きがギクシャクしてしまう。止まった腕を、無理やりトップへ持っていくように見える。明らかに不自然なフォームだった。

 なぜ、1度止まってしまうのだろうか。どうしてもテークバックからトップの動きに注目してしまう。

 しかし、松尾氏は、その点にまったく言及しない。15メートルほどの距離でワンバウンドする。高い暴投が出る。しかし、松尾氏は「OK。OK。いいよ」と言ってキャッチボールを続けていく。しばらくの後、休憩で会話を始めた。


 松尾氏 いいボールもあったね。どんな時に、いいパフォーマンスができたんだろう?


 A君 前に突っ込まなかった時ですかね。


 松尾氏 そうだね。足を上げた時の体幹を保ったまま投げた時はいいボールがいっている。A君の場合は、上げた足が地面に着いた時、重心位置が大きくズレてしまう。投球がおかしくなるのは、このパターンが多いんだよ。


 そして、撮影のためスマートフォンを設置していた三脚を指さした。


 松尾氏 前回きた時に三脚の話をしたよね。この三脚はバランスよく安定して立っている。もし、脚の位置が変わって、重心がずれていたら倒れてしまうでしょう。そんな状態で投げていないかな。今のフォームは重心がずれた状態で投げてきた結果だよ。腕の動きは結果であって原因ではないんだよ。


松尾氏(左)は三脚を例に出してフォームを指導する
松尾氏(左)は三脚を例に出してフォームを指導する

 その後も一貫して、松尾氏は腕の動きに触れない。暴投が出て、A君が「すいません」と謝っても「OK。今のはいいよ」と言ってボールを拾いに行く。そしてキャッチボールを繰り返す。


 松尾氏 ボールコントロールはボディコントロールだよ。体幹がしっかりしていれば、腕は自然と機能的に動くよ。そして足だね。


 連載の第2回で説明した、動きが「オーバーラップ」している部分を調整していく。

 すると次第にA君の投げるボールが力強くなっていった。ぎこちない動きがスムーズになっていき、威力のある球を投げ返すようになった。レッスンが終盤にさしかかった頃、私は思った。

 この選手はもともと強肩だったのではないか、と。


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 A君 そうですね。肩は強い方だったと思います。でも…


 違和感を覚えた高校時代から、スローイングは苦痛でしかなかった。彼は名門高校でセンターを守っていた。


 A君 もう試合に出たくないとさえ思いました。でも、監督さんが使ってくれた。試合中は、打球が飛んでこないで欲しいと願っていました。バックホームとか、1人で投げる場合はいいんです。割り切っていけるから。でも、カットマンに返すのが怖かった。素早く正確に返さないといけませんから。


 そんな状態で高校時代を乗り切った。大学に入り、どうにもごまかせなくなったという。(つづく)【飯島智則】