2月18日、横浜市内で日本イップス協会の講習会が開催された。会合は2部制で、午前は協会の認定トレーナーだけが参加できる。午後は協会会員、さらには一般参加も受け入れる形で行われた。


日本イップス協会で体の動きについて学ぶ
日本イップス協会で体の動きについて学ぶ

 認定トレーナーは、規定の講習を終えた後でトレーナー試験に合格しなければならない。現在、認定トレーナーは20人いる。日本各地の指導者や医療関係者、さらには個人的に興味を持って勉強に臨む人も集まってくる。

 協会の会長は、イップス研究所の所長を務めるイップス先生こと、河野昭典氏(59)である。


 河野氏 認定トレーナーは50人までと考えています。目安として各県に1人、本当の意味で理解してくれる人がいてくれればと思っています。


 研究所でイップス克服を指導するだけではなく、その考えを広めていく必要がある。そう考えて設立したのが日本イップス協会だった。


日本イップス協会で講義をする河野氏
日本イップス協会で講義をする河野氏

 試験に合格した認定トレーナーが集まる午前の部は、実践的な講習だった。トレーニング方法に続いて実施されたコミュニケーション方法の勉強は興味深かった。

 「質問型」といって、質問を中心として対話をしていく方法だった。トレーナー同士が「監督役」と「選手役」を務め、会話を実践する。不調で悩む選手に対し、いかにアプローチしていくか。


【高圧的な例】

 監督役 最近、ちょっと調子が悪いな。

 選手役 はい。ストライクを取るのに苦労しています。

 監督役 オレが言った通りにやってないだろう。オレの言うことを聞かないから、うまく投げられないんだ。

 選手役 すみません…。


【質問型の例】

 監督役 最近、調子はどうだ?

 選手役 ちょっと調子を崩していまして、ストライクを取るのに苦労しています。

 監督役 そういうこともあるよな。自分ではどんな理由だと思ってる?

 選手役 腕の振りばかりに気を取られていると思います。もっと下半身を意識してみようかと。

 監督役 どうしてそう思った?

 選手役 うまく投げようと上半身ばかり気になっているかなと思いました。だから、もっと下を意識した方がいいと思いました。

 監督役 それもいいな。下半身が安定すれば、どう変わってくるだろう?

 選手役 リリースポイントが安定して、まとまってくると思います。

 監督役 試してみたらいいよ。あとは、オレも投手をやっていたけど、骨の動きを意識するといいと思うよ。自分の考え通りにやってみて、また報告してよ。


 講師役を務めた林俊一氏(質問型コンサルタント)が効果を説明した。


 林氏 質問を繰り返すことで、相手の考えをまとめていきます。自分で答えを導き出せるように促していく。こちらからの提案は最後にします。営業などビジネスで使う手段ですが、イップスを未然に防ぐ指導にもリンクしている部分が多いと思います。


 また、好意、共感を持って質問すること。さらには言葉のみならず声のトーンやスピード、顔の表情なども重要な要素になるなどと説明があった。

 トレーナー陣は、メモを取りながら真剣に耳を傾けていた。

日本イップス協会でコミュニケーションの取り方について学ぶ
日本イップス協会でコミュニケーションの取り方について学ぶ

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 さらにはイップス研究所に届いた相談メールが紹介された。どのように対処すべきか話し合った。

 相談者は大学のボート部に所属する選手で「右肩を前に出しにくい」「背中も左側だけに負担がかかってしまう」「部内でも、相談できる人がいない」などと書かれていた。

 公認トレーナーの面々もボート競技に詳しい人はいなかった。

 だからこそ、河野氏はこの題材を選んだようだ。イップス研究所には、そば打ちの名人や美容外科など、スポーツ以外のイップスに悩む人も訪れる。

 河野氏がメンバーに言った。

 「先日もギタリストの方からの相談も受けました。野球以外のイップスもあります。詳細はご本人に聞かないと分かりませんが、このメールだけで皆さんがどう感じるか。意見を出し合ってください」

 トレーナー陣から、次々に意見が出た。


 「相談できる人がいないという点が気になります。部内で何かあったのか。人間関係なのか。期待の下級生が入ってきて、メンバー入りが危なくなったとか。そのへんを聞き取りたい」


 「なぜ右肩に症状が出たのか。右の動きを自分で意識したのか、誰かに指摘されたのか。修正のために何かトレーニングをしたのではないか。それがうまくいかなかったのではないか。その原因を理解したい」


 「真っすぐ引かなければ、左右均等でなければ…という意識が強いのでは。野球でも『肘を上げなければいけない』という思いがイップスにつながる」


 河野氏はトレーナー陣に継続して検討するよう指示をした。


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 午後の部は、協会員や一般参加のメンバーで講習会が開かれた。

 河野氏が講師を務め、イップスの語源から脳の仕組み、意識と無意識などが説明された。連載の第1回から第3回にかけて説明した内容が主である。

 さらには無意識のメンタルトレーニングや、目の使い方についても説明された。

 終日かけて、イップスについて勉強会が行われた。


 河野氏 イップスに悩んで研究所にくる選手を指導するだけでは足りません。監督やコーチ、トレーナーの方々にイップスを理解してもらい、指導に生かしてもらいたい。そのための日本イップス協会です。皆さん、熱心に勉強してるでしょう。この方たちが、各地に戻って指導してくれる。選手にとって心強い存在になります。


 イップスを正しく理解してもらいたい。イップス先生と呼ばれる河野氏の思いである。

 何度か取材した後、河野氏から「どうしても記事の中に書いてほしいことがあります」と言われた。

 イップス先生が、どうしても伝えたいこととは何だろうか。(つづく)【飯島智則】