ベースボール・コーチングアカデミーの代表者、寺澤恒氏(51)にイップスを聞いた。自身も中学生を指導してきた経験を持ち、今は同アカデミーを通じてさまざまな指導者と交流を持っている。


全国を回って技術指導を行う寺澤
全国を回って技術指導を行う寺澤

 同氏はUCLA(カリフォルニア大ロサンゼルス校)でコーチングを学び、以後も大リーグ球団の指導者に学ぶ機会を持っている。


 寺澤氏 イップスと指導の関係で言えば、日本では多くの指導者が「教えすぎ」ではないでしょうか。UCLAの教えですが、自然に動くところをいじっちゃいけない。


 立ち上がって投球動作を始めた。テークバックからトップまでの動きを繰り返した。


 寺澤氏 ここはブラックボックスと呼ばれていた。手をつけちゃいけないところという意味ですね。ここで「手首を返して」とか「肘をたたんで」など細かいことを言うと、動きが分からなくなってしまう。


 投球の指導はするなということか。


 寺澤氏 いや、直すならブラックボックスに入る前です。例えば投手ならプレートの使い方は細かく指導する。軸足を一気に90度回すところを「45度、45度の2度に分けた方が入りやすい」とかね。一気に90度だと、かかとがずれて回転しすぎてしまうんですね。あとはフィンガー・オン・ザ・ボール…つまり「指をボールの上に乗せておきなさい」と。こういう部分を直すことで、自然にトップに入るようにする。私は理にかなった指導に思えました。


 指導しすぎない指導ということか。


 寺澤氏 でも、UCLAで一番感銘を受けたのは「この子が26歳になった時、どこにいるかを考えて指導している」という言葉です。要するに26歳で大リーガーになるためには「10歳の今、何をしたらいいか」「12歳の今、どんな練習をしたらいいか」です。小学生の頃から慌てて細かい技術を教えなくてもいいと思います。教えすぎてイップスを招き、選手が野球をやめてしまうようでは何もならない。また、教えすぎは、選手自身が工夫する機会を奪っている気がしてなりません。


 少年野球の指導者も、熱心に取り組むからこそいろいろ指導をしている。また、多くの少年野球チームは、親が指導者を務めている。野球の知識が豊富な専門家ばかりが教えられる状況ではない。


 寺澤氏 だから我々は情報交換をしているんです。フェイスブックで練習方法の動画を流したり、各地で勉強会も開いています。首都圏だけでなく北海道や青森でもやりましたし、高知や広島にも行きました。今オフには福岡で開催する予定もあります。


 私も埼玉・大宮で行われた勉強会に参加した。動画を用いた練習方法の紹介や、ライフル射撃で日本チャンピオンになった経験もある寺澤氏のメンタル面の指導もあった。

 勉強会が終わった後は、居酒屋へ移動して懇親会も行われた。各地で奮闘する指導者が、リラックスした雰囲気で意見交換をしていた。「どんな言葉で伝えるか」「うまく伝わらない時はどうするか」。指導方法はさまざまでも、野球が好きで、子供たちを成長させたいという思いに違いはない。

 楽しい会話に時間を忘れ、私と寺澤氏は終電を目指して大宮駅まで猛ダッシュすることになった。電車の中でも指導論を語り合った。


 寺澤氏 皆さん熱心でしょう。子供たちのことを真剣に考えているからですよ。現実的に野球に詳しくないお父さんコーチが、指導するチームも多い。何を教えていいか分からないかもしれません。でも、こうやって情報交換を重ねていけば、プラスになることも多いと思います。技術が教えられなくても、選手の気持ちを考えて声をかけるだけで違いますよね。


大リーグのキャンプを回り、指導を勉強する寺澤氏
大リーグのキャンプを回り、指導を勉強する寺澤氏

 同氏も勉強を重ねている。今年も選手を伴ってフロリダへ行き、指導方法を学んできた。


 寺澤氏 イップスについては、この連載でいろいろな方の話を読んで、勉強になっています。認識不足だったところもあります。やはり、子供を指導していく上で勉強は大切だと思いました。


 指導に一つの正解はない。「イップスを招かないためには、こう指導すべきだ」などと安易な結論は出せない。

 ただ、どうしたら子供にとってプラスになるか。指導者の考えを通すのではなく、子供のプラスを考える。その姿勢だけは決して欠かしてはならないと感じた。


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 小学生の指導者に話を聞きたい。そう考えて取材を申し込んだのは、鈴木尚典氏(46)だった。

 横浜(現DeNA)の選手時代に2度の首位打者を獲得し、1998年に38年ぶりとなる優勝の原動力となった。西武との日本シリーズでは最高殊勲選手賞も獲得している。

 鈴木氏は引退後、コーチを経て11年から球団職員として野球スクールなどで野球少年を指導している。NPB12球団ジュニアトーナメントで横浜DeNAベイスターズジュニアの監督も経験し、2016年には優勝も勝ち取っている。


横浜DeNAベイスターズのベースボールスクールで少年を指導する鈴木尚典さん
横浜DeNAベイスターズのベースボールスクールで少年を指導する鈴木尚典さん

 鈴木氏に野球少年のイップスについて聞いた。元プロ選手というより、小学生を指導する立場として話してもらった。


 鈴木氏 大切なのは、周りだと思います。指導者にとって、やるべきことがあると思いますよ。


 イップスの指導において、重要と思われる言葉が出てきた。(つづく)【飯島智則】