鈴木尚典氏(46)に、イップス指導の話を聞いた。現役時代は首位打者2度のヒットマンで、現在はDeNA球団職員として野球スクールで指導をしている。小学生の選抜チーム、DeNAベイスターズジュニアの監督として日本一に輝いた経験も持っている。


少年たちにスローイングを指導する鈴木尚典氏
少年たちにスローイングを指導する鈴木尚典氏

 鈴木氏 確かに個性的な投げ方をしている子はいます。ただ、個々で体の柔らかさも腕の長さも違う。理にかなっているなら直す必要はない。無理にでも矯正すべきかどうか、指導者はそこを判断する必要がありますね。


 スクールで個性的な投げ方をする選手をどう指導するのか。


 鈴木氏 シンプルには指導しますよ。「ボールを後ろに向けて」とか「グラブを相手に向けて、投げる時に引こう」とか。急激には変化しなくても、他の選手の投げ方に影響されるなど変わっていくこともあります。それよりも…


 さらに指導内容を突っ込もうとする私の質問をさえぎり、鈴木氏が話し始めた。ここは、ぜひ多くの指導者に学んでほしい部分だ。


 鈴木氏 例えばセカンドにイップスの子がいたら、指導者はファーストに声をかけてほしいんですよ。「送球がそれても、ショートバウンドでも、手が届く範囲なら捕れよ」「手が届く範囲なら絶対に後ろへそらすなよ」とね。それでセカンドには「ファーストの手が届く範囲に投げればいいから」と言ってほしい。


 セカンドが送球難なら、多くの指導者は本人に声をかける。投げ方を直そうとする。


 鈴木氏 普通はそうですよね。でも、野球って1人でやるものじゃないでしょう。投げる側がいれば、捕る側もいる。内野手がイップスならファーストに、外野手がイップスならカットの内野手に声をかけてほしい。


 同氏は現役時代にレフトを守っていた。若手の頃はショートに進藤達哉選手、サードに石井琢朗選手、96年からはコンバートで逆になったが、常に守備のうまい2人に送球していた。


 鈴木氏 ずっと進藤さんと琢朗さんに助けられていました。私が投げたボールがそれても、ショートバウンドになっても、サラッと捕ってくれる。怒られるどころか何も言われたことがありません。こっちは「すみません」って言ってますけどね。若手の頃、プレッシャーで投げるのが怖かった時期もあるんですけど、2人のおかげでイップスにはならなかった。


選手たちに指示を出す鈴木尚典氏(中央)。左は往年のリリーフエース島田直也氏
選手たちに指示を出す鈴木尚典氏(中央)。左は往年のリリーフエース島田直也氏

 2004年、鈴木氏は現役プロ野球選手が高校球児に指導するシンポジウム「夢の向こうに」に参加した。会場は鹿児島で、ダイエー(現ソフトバンク)の松中信彦選手、川崎宗則選手も一緒だった。


 鈴木氏 内野手の高校生から「ボクは送球が苦手なんです」と質問が出ました。そうしたら川崎が「ファーストの手が届く範囲ならショーバンでも何でもいいよ」と答えた。まだ二十歳そこそこ(当時23歳)の若手ですよ。で、ファーストの松中が何て言うかなと思ったら「手が届く範囲が捕れなければファーストの責任だ」って、同じことを言った。ちょっと驚きましたね。


 シンポジウムが終わってから、松中選手に声をかけたという。


 鈴木氏 聞いたら、松中が「うちは、ずっとそういう考え方ですよ。小久保(裕紀)さんからも言われています」と教えてくれました。強さの秘訣(ひけつ)なのかなと思いました。今ね、少年たちを指導するようになって、あらためて大事なことだと思います。イップスのようになってしまう選手を防ぐ一つの方法かなと思う。


鈴木尚典氏が打撃の見本を示すと少年たちは大喜び。打球はフェンスを越えていった
鈴木尚典氏が打撃の見本を示すと少年たちは大喜び。打球はフェンスを越えていった

 スクールだけではなく、小学生の選抜チームであるDeNAベイスターズジュニアを率いた経験もある。


 鈴木氏 ジュニアの子はレベルが高いので言いますよ。送球がそれてもグラブに当たったら「それぐらいカバーしてやれ」ってね。つい「しっかり投げろ」と言ってしまいますけどね。そういう考え方って、野球では大事じゃないかな。


 ジュニアチームに合格した有望選手が、突然のように投げ方を忘れてしまった例もあったという。


 鈴木氏 指導者の方と接する機会もありますが、全体的に「教えすぎ」かなとは思います。打撃指導を聞いていて、元プロの私でも「難しいな」と思うこともある。それを小、中学生に教えてもね。もちろん、まったく教えないのでは困りますけどね。


 さじ加減が難しいところだが、技術指導の例として、自身がプロに入ったばかりの話をしてくれた。(つづく)【飯島智則】