松浦宏明氏(51)は、野球を指導する中でイップスに出会った。

 元日本ハム投手で、1988年には最多勝も獲得した。背番号0をつけ「ゼロ戦のマツ」というニックネームで人気を博した。


88年10月、日本ハム高田監督(左)の最終戦を飾る15勝目を挙げ、握手する松浦投手
88年10月、日本ハム高田監督(左)の最終戦を飾る15勝目を挙げ、握手する松浦投手

 引退後に整体師とスポーツトレーナーの資格を取得し、「松浦整骨院 松浦スポーツケア」を開業した。イップスという言葉は、ここで知った。


 松浦氏 イップスの状態で投げ続け、肩を壊した選手が来ました。私はイップスという言葉を知らなかったのですが、いろいろ調べていく中で、そういえば現役時代に周囲にもいたと思い当たりました。


 自身は投球に違和感を覚えた経験はないが、興味を持って勉強した。その後、野球の指導者としてもイップス克服に関わっている。現在も東京コミュニティスクールで教師を務めながら、週末は中学生や女子選手を指導している。

 イップスの症状を訴える選手にどのようなアプローチをするのか。


 松浦氏 まずは話を聞いて、どこにトリガーポイントがあるのか、それを探ります。メンタルの比重が大きいのか、それとも動作の比重が大きいのか。メンタルから動作が壊れてしまう、動作からメンタルがやられてしまう、両方のケースが考えられます。


 原因を見極めて、どのように対処するのか。


 松浦氏 メンタルの比重が大きいと思えば、私が信頼するメンタルクリニックの先生を紹介します。多くのスポーツ選手を手がけ、実績を持つ方です。ここでメンタルのケアをしてもらう。


 すぐにモーションなどの動作改善に取り掛かるわけではない。


 松浦氏 メンタルのケアをしないと、動作がよくなっても何かのきっかけで戻ってしまう。簡単に戻ってしまいますよ。だから専門家にケアしてもらう。私は、動作の修正をして自信を取り戻させてあげることはできる。でも、それだけでは足りません。動作だけでイップスは治りませんよ。


 メンタルのケアをしてから動作改善に入る。この流れは、イップス研究所の所長を務める河野昭典氏(59)と同じである。


 松浦氏 メンタルのケアをしてもらうだけで動きも良くなりますよ。動きが良くなっているなと思った選手に「きのう(メンタルの)先生のところに行ったでしょう」と聞くと、大体その通りです。逆にケアをしていないと、やはり動きがおかしい。もちろん選手によって違いますが。


 では、動作については、どのように考えているのか。


 松浦氏 突然に発症するようですが、もともと動作がおかしいケースが多い。高校生で硬式球になったとき、イップスを発症する率が高いように思います。でも急に狂うわけではない。軟式だとごまかせていたものが、硬式でごまかせなくなるだけ。硬式球の方が乱れ方が大きいですからね。もともと本来の動作や理にかなった動きではなかった。小学時代から正しい投げ方をしていなかったものが、高校になってごまかせなくなる。そういうケースが多いと思います。


 小、中学時代に理にかなった動きを覚えておく必要がある。


 松浦氏 たまたまイップスを発症しないままに野球を終える選手もいるけど、やはり伸び止まりします。ごまかしの投げ方では伸びていかない。表面的には普通に投げていても、私は「この子は危ないな。イップスになるかもしれない」と分かります。


中心に線を引いたボールで正しい握り方を見せる松浦氏
中心に線を引いたボールで正しい握り方を見せる松浦氏

 具体的に、どんな点を見るのか? そう聞くと、松浦氏は手元にあった軟式ボールを手に取った。中学生が使うB球で、中心にマジックで線が引いてある。


 松浦氏 では目をつぶってください。私がボールを渡しますから、感覚で握ってください。


 目をつぶり、ボールを手にした。私は20年以上も野球担当記者で、少年野球チームの指導者を務めた経験も持つ。基本的な握り方は理解しているつもりだった。


 松浦氏 目を開けて、握りを見てください。どうですか?


 イメージ通りに握ってはいる。しかし、中心部に引かれた線からずれている。中指も人さし指も、中心線よりも右側にある。


 松浦氏 これだとスライダー回転するはずです。でも、真っすぐ投げられることもある。なぜだと思いますか? はい、算数です。


 シュートを投げているからだろうか。


 松浦氏 そう。スライダー回転の握りでシュートを投げている。スライダー+シュート=ストレート。結果的に真っすぐ投げていても、ごまかしですよね。いい球はいかない。そして何かのきっかけで動作に狂いが生じたり怪我につながる。


 さらに質問が飛んできた。完全に攻守が交代した形だった。


 松浦氏 では、ボールの縫い目は、なぜ、このような曲線を描いているのでしょうか?


 結論から言うと、私は正解を答えられなかった。(つづく)【飯島智則】