連載の終盤を迎えるにあたり、もう1度イップスに対する考え方を整理しておきたい。そのためイップス先生こと、イップス研究所の河野昭典氏(60)に再登場を願った。

 今回は野球以外の競技を取材したい。そう依頼して、日本ウェルネス高校ゴルフ部へ向かう河野氏に同行させてもらった。今年から同部のメンタルトレーナーに就任した河野氏が、初めて部員と接する日で、講演の形が取られた。

 河野氏は冒頭で脳の働きなどを説明した。連載の第3回で書いたように、意識と無意識の差。さらには第10回に出てくる、ルーティンの落とし穴なども説明された。

 高校生が相手とあり、分かりやすく補足を挟み込んでいた。

 頭(思考)、心(気持ち)、体(技術)のトライアングルが狂っていたら、能力は発揮できない。そうした説明の後で語りかけた。


自己暗示について説明する河野氏
自己暗示について説明する河野氏

 河野氏 例えば、頭では「行かなければいけない」と考えていても、心は「行きたくない」「やりたくない」と思っているかもしれない。だから「~しなければならない」という考え方はやめた方がいい。自分がどうなりたいか。つまり「~したい」ですね。彼氏や彼女に会うのに、「会わなければいけない」とは思わないでしょう。「会いたい」「会える」。思考と気持ちが一致すれば、体…つまり技術にもいい影響が出ますよ。


 全部員に質問を出した。

 Q:約1・5メートルのパット。これを入れたら優勝、外したら準優勝。プロなら賞金が何千万円も違ってきます。どんな気持ちで臨みますか?

 答えはさまざまだった。


 「入れてやる」

 「不安になります。緊張してしまう」

 「入れよう」

 「絶対に入れてやる」

 「外してもいいや」

 「いいストロークができればいい」

 「何も考えずに」

 「思い通りに打てればいい」

 「練習をたくさんしてきたから自信を持って」

 「入れなきゃいけない」

 「不安に思う」


 河野氏 緊張するのは悪いことではありませんよ。不安に思うことも人間なら当たり前です。要するに大切なのはイメージを切り替えることです。


 続けて質問をした。

 Q:野球で最終回の2死満塁。優勝のかかる打席で、次のどちらの選手が活躍できる可能性が高いでしょうか?

 (1)「絶対に打ってヒーローになってやる」

 (2)「やべえ、オレに回ってきちゃった。緊張しておなかが痛くなってきた。トイレに行きたい。でも、監督は代打を出してくれそうもない。仕方ない。高めの球をレフト方向に打てればいいや」


 ほとんどの部員が(2)に手を挙げた。


 河野氏 (1)は強気なようですが、先…プレーが終わった後をイメージしています。打席での具体的な行動に結び付かない。(2)は最初に逃げたいと思っていますが、切り替えて「今、自分がしたいこと」をイメージしている。高めの球をレフト方向に打つという具体的なイメージです。どんなイメージを持って臨むかで、体の動きは大きく変わってきます。イメージした通りに動くものなのです。


 イメージの具体例を挙げていった。


 河野氏 例えば「○○さんのような人にはなりたくない」と思っている。意識では「なりたくない」と思っていても、頭の中にイメージするのは○○さんですよね。イメージしているうちに段々似てきてしまう。だったら「△△さんのような人になりたい」と思った方がいい。


河野氏(中央)は選手に質問をしながらメンタルの重要性について語った
河野氏(中央)は選手に質問をしながらメンタルの重要性について語った

 ゴルフの話に戻る。


 河野氏 パターで「入らなかったらどうしよう?」と不安が出てくる。体が震えるかもしれない。それは当然です。大切なのはイメージ…絵を描き換えてあげることです。自分はどうしたいのか? ショートしたくないパットなら強めに打つ姿をイメージする。


 イメージが持つ力の実演があった。部員たちに椅子に深く座り、両足をしっかり床に着けるように指示が出た。


 河野氏 目をつぶって、両足を床にしっかりつけてください。両足が床についている感覚を味わってください。目はつぶったままですよ。足を上げようとしても、もう上がりません。上げようとすればするほど、足は上がりません。


 実際に上がらなかった人を問うと、半数以上が手を挙げた。「えっ、何で?」「怖い」という感想を口にする者もいた。


 河野氏 私に「上げようとすればするほど上がりません」と言われ、耳から聞いた言葉をイメージして、その通りになってしまう。催眠術でも何でもありませんよ。「言葉の暗示」です。ただ、言葉をかけているのは私ですが、その通りにイメージしているのは自分でしょう。軽く上がるイメージに切り替えれば、ちゃんと上がりますよ。


 できる姿をイメージすればいい。


 河野氏 言葉の暗示は強いので、言葉がけは大切です。周囲からの言葉もそうですし、自分自身にかける言葉も同じです。「失敗したらいけない」では、失敗のイメージを思い浮かべています。その通りになってしまう。私はこうした講演以外で「~しなければ」とは絶対に言いません。必ず「~したい」です。これだけで人生変わりますよ。


 自分自身にかける言葉。簡単なようで難しいのではないか。


 河野氏 大切なのは、まず自分自身をよく知ることです。では皆さん、自分の「好きなところ」「嫌いなところ」を5つずつ挙げてください。


 そう言って1人ずつに答えさせた。

 「好きなところはないです」

 「難しい」

 「好きなところはあいさつができる、運動が好き…あとは…」

 恥ずかしさもあるのだろう。なかなか出てこない。


 河野氏 自分を知ることは大切ですよ。自分がどんなプレーをしたいのか。持ち味は何か。それが分かれば自分をつくっていける。困った時に修正もできます。自分が分からなければ、どうしていいのか分からないでしょう。プロ選手に聞くと、ポンポン出てきますよ。


 そう言われ部員たちも奮起した。

 「好きなところは、おしゃれ、格好いい、背が高い、やさしい。嫌いなのは、顔がでかい。恥ずかしがりや…あとはありません」

 「手がきれい、鼻が高い、でかい、スポーツができる。あいさつができる」


 河野氏 そう、自分を知るところから始まります。


 講演が終わり、最後に質問を募った。日本でも有数の強豪ゴルフ部だけに、部員の意識も高いのだろう。次々に質問が出てきた。(つづく)【飯島智則】