日本ウェルネス高校ゴルフ部で、イップス研究所の所長、河野昭典氏(60)が講演を開いた。今年から同部のメンタルコーチに就任した。講演後、部員から次々に質問が出た。


日本ウェルネス高校ゴルフ部でメンタル指導をする河野氏
日本ウェルネス高校ゴルフ部でメンタル指導をする河野氏

 「ボクは小学3年からゴルフをしていてベストは72です。72は5回出していて、73は数え切れない。アンダーを出す腕はあると思うのですが、どうしても出せません。どうしてでしょうか?」


 河野氏 自分で壁を作っているんじゃないかな。「72を切れないのではないか」とイメージしたら、その通りになってしまうよ。72の壁を取り払って、いっそのこと68とか65を出すイメージで臨んでみたら? 一気に壁を破ってみようよ。


 「私は大きな試合で緊張してしまいます。ある試合では前日に体を休めたのに、当日に体調を崩してしまいました。前向きに考えようと思っているけど、なかなかうまくいきません」


 河野氏 まず緊張を受けいれること。あとは緊張する人は息が止まっていることが多いから、思い切って息を吐くことですね。普段から息を吐いて、リラックスする練習をしてみよう。あとはお風呂で湯船につかったとき、手が沈んでいない? 力を抜いたら浮かんでくるはずだよ。毎日やって、力を抜いた状態を体に覚えさせていこう。毎日やっていれば筋肉が覚えてくれるから。要するに緊張しても打てればいいわけでしょう。


 「先生は先ほど、得意なプレーを極めていけばいいと言いました。私はアイアンが得意で、パターはイップスが出ます。パターは技術的な向上をあきらめていいという意味ですか?」


 河野氏 あきらめることは大切ですよ。リセットになりますから。パターは苦手だと思っているんでしょう。嫌いなら嫌いでいい。得意なアイアンで寄せればいい。それにリセットしたからってまったく打てないわけじゃないでしょう。


 ソフトバンク内川聖一内野手が通算2000安打を達成した際、日刊スポーツにこんな記事が掲載された。横浜(現DeNA)時代、彼をプロの世界に導いたソフトバンク岩井隆之スカウトの話だった。


 「内川はプロ入り後、岩井スカウトにある悩みを打ち明けていた。

 岩井 スローイングで悩んだ時期があったけど『お前には打撃がある。それだけで十分だ』と言いました。それから首位打者になりました」


 岩井スカウトは、内野守備コーチの経験もある。スローイングの指導もできただろう。だが、非凡な打撃を磨くよう助言した。これは河野氏が説くところと共通しているだろう。


イメージの重要性について指導する河野氏
イメージの重要性について指導する河野氏

 講演と質疑応答が終わり、同部の河田丈一郎コーチは「これまで技術や礼儀などは教えてきましたが、メンタルは特別にやってこなかった。選手個々で技術に差はありますが、緊張した時の対処などは共通して大切です。選手から積極的に質問も出ていたし、学べてよかったと思います」と語った。

 また飛田愛理コーチは「つい『~しなければならない』という言葉を使っていました。これから選手への言葉のかけ方も変わってくるでしょうし、私自身がプレーするときの考え方も変わると思います」と話していた。


 河野氏は同部のメンタルトレーナーとして、今後は個々の選手にイップス克服指導などを行っていくという。


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 連載の最後に登場してもらうのは、ソフトバンク2軍監督の小川一夫氏(64)だ。これは連載を始めた頃から心に決めていた。

 イップス先生こと河野氏を取材する中で、何度も小川監督の名前が出てきた。イップス克服に興味を持ち、河野氏を球団のメンタルアドバイザーに招いたこともあった。

 指導者のみならず、スカウトや編成としての経験も豊富で、プロ、アマ問わず野球界に精通している。そんな立場から、イップスをどう捉えているか。どうしても聞きたかった。

 名古屋市内のホテルで、河野氏にも同席してもらってインタビューした。

 まず、イップスといわれる症状との出会いを聞いた。


 小川氏 すぐに思い浮かんだのは、私の2、3歳下でね。期待の右投手がいた。いいボールを投げていたけど、3年目ぐらいかな。投げる時に腕が頭に当たってしまうようになった。トップで頭に当たってしまう。私はこの連載を読んでいますけど、そんな症状が書いてあったでしょう。まさに、その通りでした。


 周囲の反応は?


 小川氏 えっ、そんなになっちゃうんの? という感じでした。克服できないまま、若くして引退しました。


 プロ球界にも、そのような症状の選手がいる。


 小川氏 打撃投手をしていた人がストライクどころか、大きなケージに入らない球を投げたのも見た。現役時代にコントロールのいい投手だった人が、打撃投手になった途端に入らなくなるのはよく聞く。軽く投げる難しさですね。要するに指先の感覚がいいかどうかなんですよ。


小川一夫ソフトバンク2軍監督
小川一夫ソフトバンク2軍監督

 自身がスローイングに悩んだ経験は?


 小川氏 ないと思っていた。ただ、この連載に反復練習をやり過ぎることで狂うと書いてあったでしょう。あれを読んで、そう言えば…というのがある。私は捕手だけどコントロールがよかったから、野村(克也)さんらを相手に打撃投手をしました。毎日投げていて「あれっ、トップがうまく作れないな」と思うことがあった。当時は疲労としか思わなかったけど、「同じ動作を繰り返し過ぎてうまくいかなくなる」というのは分かる気がします。


 スカウト時代にも、イップス症状の選手を見た。


 小川氏 メジャーでも活躍した田口(壮)は、大学時代にショートだったけど、当時から「スローイングに難がある」「イップス傾向にある」とは聞いていた。そういう選手がプロ入りして外野に転向する例はよくありますよね。まあ、最近ではすぐに「イップス」というよね。ちょっとスローイングが悪い子に冗談を含めて「イップス、イップス」というから、言われているうちに悪くなってしまうんじゃないかと心配してますよ。


 イップスといわれる選手に何か特徴はあるか。


 小川氏 指先の感覚が悪い選手は、短い距離のスローイングが苦手だよね。肘先が使えない。手首で投げられない。固い、器用じゃない選手は短いスローが下手ですね。全力投球はできるけど、加減して投げられない投手もいますよね。巨人にいた小林(繁)さんなんか、投ゴロを捕ったら一塁まで走っていったぐらいでした。


 短い距離を投げられない悩みは数多く聞いてきた。


 小川氏 まあ、プロはレベルが高い技術を求めるので、内野手…特に二遊間は肘先、指先で加減するスローを覚えないといけない。練習をしているうちに逆に分からなくなってしまう傾向はあるでしょう。


 イップスに陥った選手にどのような指導をするのか。それを問うと、話はメンタルドクターの必要性に及んでいった。(つづく)【飯島智則】