前回、ここで書いた上武大の4年生の絆に続き、この秋、印象的なチームがもう1つありました。それは亜細亜大学硬式野球部です。

 10月27日の国学院大との最終戦。試合が始まって目にとまったのは、ベンチの前に座るボールボーイの選手でした。見覚えのある顔…それは、この秋のリーグ戦、開幕からショートのレギュラーとして出場していた4年生の木浪聖也選手(遊撃)でした。

 開幕カードの専修大戦では2試合で5安打と大活躍。しかし、10月11日の東洋大との1回戦でヘッドスライディングした際に左手を8針縫うケガを負い、メンバーを外れていたのです。

 「秋こそは、と思っていたときだったので…。悔しかったです」

 そんな思いを隠し、「チームのためにできることをしたい」と、ケガをしていない右手でバッティングピッチャーを買って出て、練習に参加。そんな木浪選手に、「最後は神宮のグラウンドに立たせてやりたい。4年生の一番近くに」と、ボールボーイを任せたのです。

 「うれしかったです。最後にグラウンドに立たせてもらって…。今日はバットやボールを拾いに行く時は、全力疾走で。チームために、と思ってやりました。4年生と一緒に戦えました」

 試合後、清々しい表情で答えてくれました。

写真左から中川涼太選手(4年・投手)と木浪君。中川選手も、チームのムードメーカーとして欠かせない選手でした
写真左から中川涼太選手(4年・投手)と木浪君。中川選手も、チームのムードメーカーとして欠かせない選手でした

 「チームの勝利は、4年生のまとまり次第」

 この秋のリーグ戦では、開幕からなかなか勝ち点を挙げられず苦戦するチームに、生田監督は勝利のキーポイントに4年生を挙げました。その激に応えるように、朝6時からの練習では4年生のマネージャーもグラウンドに出てバッティングピッチャーを務め、スコアラーの選手たちが球拾い。しかし、10月19日、日大に敗れ勝ち点を落とし昨秋から続く連覇は消滅。25日には日大が優勝を決め、亜細亜大にとっては国学院大とのカードは消化試合に。しかし、日々、4年生に激を飛ばしながらも影ながら努力している姿を、生田監督は見逃しませんでした。10月27日の最終戦、生田監督は4年生に最高の舞台を用意しました。前出の木浪選手にはボールボーイを。そして、先発には秋のリーグ戦初先発となる4年生の諏訪洸選手を指名。9回2死まで被安打3で0封に抑え、このまま完封かと思われたとき、交替が告げられました。

 マウンドに上がったのは、同じ4年生の野沢勇吾選手でした。1年で諏訪選手とともにベンチ入りを果たしリリーフで3試合に登板も、その後、不調が続き神宮のマウンドに上がることはできませんでしたが、それでも、諦めずに毎日毎日、練習。チームメートの誰もが認める努力家でした。

 そんな野沢選手が、最後のバッターを得意のストレートでセカンドフライに抑え、ゲームセット。

 「最後は野沢が抑えて、僕らの4年間が終わった。野沢は一番努力してきたヤツ。本当にうれしかったです」(木浪君)

 打線も12安打、1試合11の盗塁を決め、東都の盗塁記録も塗り替えました。

 「神宮のマウンドはドキドキしましたが、抑えられてよかったです。普段、ピッチャーの交代は、監督に一度ボールを渡してから次のピッチャーにボールを渡すのですが、マウンドで監督が、“諏訪から直接渡してやれ”と言ってくれて。それまで好投していた諏訪から直接ボールを受け取って、力をもらったような気がしました」

9回2死で投手交代。諏訪選手から直接ボールを受け取る野沢選手
9回2死で投手交代。諏訪選手から直接ボールを受け取る野沢選手

 -4年間ありがとう- 

 4年生全員の気持ちを乗せたボールで力のこもったボールを投げてくれた野沢選手。

 「一生懸命やってきて本当によかったと思います。これからは社会人野球で、ここで学んだ力を発揮できるように頑張ります」と、笑顔で話してくれました。

チーム全員の応援を胸に、神宮球場最後のマウンドに立つ野沢選手
チーム全員の応援を胸に、神宮球場最後のマウンドに立つ野沢選手

 最後の1球まであきらめない。それは努力してきた4年間があるから。毎日、毎日、練習してきた日々を、この神宮球場で。一緒に練習をしてきたチームメートと全員で戦う-この4年生の姿は、後輩たちに受け継がれるのでしょう。

 大学野球をそれぞれの形で終える選手たち。社会人野球、プロ野球に進み野球を続ける選手はほんのわずか。小さい頃から続けてきた野球を、この大学野球で終える選手も多いはず。でも、学んだことは野球ばかりではなかったはず。苦しくても努力で乗り越える力。チームメートの大切さ。野球は彼らに大きな財産をくれたはず。さぁ、みんながこれから社会に出て、どんな活躍を見せてくれるのか。彼らの人生は、今、新たなスタートラインに立ったところなのかもしれませんね。みんな、頑張れ!

写真左から野沢選手、諏訪選手。2人は1年春に一緒にベンチ入り。4年間、ライバルとして一緒に練習をしてきました。野沢選手はJR北海道、諏訪選手はトヨタ自動車に就職し、野球を続けます
写真左から野沢選手、諏訪選手。2人は1年春に一緒にベンチ入り。4年間、ライバルとして一緒に練習をしてきました。野沢選手はJR北海道、諏訪選手はトヨタ自動車に就職し、野球を続けます