昨年11月7日、日体大硬式野球部の公式YouTubeチャンネル「NITTAI BASEBALL CHANNEL」から軽妙な掛け合いが流れてきた。
「巨人から1位指名を受けた平内龍太投手、初球はスライダーでカウントをとってきました! 武藤さん、このスライダー非常にキレがありますね」
「はい、三振を奪うときのスプリットが武器ですが、スライダーでカウントをとって真っすぐで押していく配球は、リーグ戦でもよく見られましたね」
プロのアナウンサーさながらの実況中継の声の主は、日体大・畑中壮太郎マネジャー(3年=三田)。解説として放送席に招待されたのは亜大の武藤巧主務(3年=東邦)。日体大と亜大のオープン戦が横浜市の日体大グラウンドで行われ、動画配信された。
バックネット裏にはカメラ2台、センターに1台。放送席にはスイッチャー(画像の切り替える)も配置。撮影はすべて日体大の部員たちの手で行われた。実況中継を担当した畑中マネジャーは、小さいころから野球中継を見たり、新聞や野球雑誌を読むことが趣味だった。対戦チームのデータを徹底的に頭に入れ、ネットで実況中継のコツも調べた。「状況を細かく伝え、補足は解説の人へ振るように気をつけました」。絶妙なタイミングで武藤主務に話題を振った。
普段の生活の様子や選手の性格など、部員でなければ分からない情報も盛り込まれ、約2万回の視聴と大成功。その後、日体大は紅白戦や練習なども配信。4年生送別試合は3万回を超える視聴数となった。
撮影を担当した大塚輝学生コーチ(3年=向上)は「コロナ禍で見に来られない選手の保護者に見てほしかった。また、もっと大学野球を知ってもらいたいという思いもありました」と胸の内を明かした。
部員が発信する野球部の活動。古城隆利監督(51)は「自分たちのチームの価値を上げ、情報発信をする。コロナ禍を機に、今まで以上にたくさんの選手に光が当たるようになった。選手たちは隠れた才能を発揮し、成長を見せてくれた」と評価している。
同じ首都大学野球の筑波大は昨年、ドラフト会議の実況中継も配信。部員の中から野球情報にたけている選手3名が、選手の目線からドラフト指名の順位予想をし、解説。笑顔があふれる楽しい実況が、放送された。
野球部内には「広報・企画部局」もあり、公式のSNSで選手のインタビュー、誕生日企画など趣向を凝らした配信も行っている。中川隼主務(3年=今治西)は「SNSで全国の方が見てくれる。自分たちで、大学野球を広めていきたい」と、これからも積極的に展開していくつもりだ。
選手から発信する時代へ。新しい波を感じる。中川主務は「去年は、野球ができず苦しい時期もあったけど、今まで以上にいろいろ考えて準備、努力。新しい取り組みができました」と、コロナ禍の時期を前向きに捉えている。
これまでの日常が消えた昨年。選手たちは、現実から目をそらさず、今自分たちに何ができるかを考え、新しいことに挑戦。可能性を広げている。いまだ終息を見せないコロナ禍も、選手たちのこのパワーがあれば乗り越えられる。今は、そう心から信じられる。